Q2
 定年を迎えて再雇用を検討している従業員がおります。これまでに双極性障害で3回ほど休復職を繰り返し、定常化されていないテレワークでの復職を要求するなど、契約上求められる労務提供は殆どできておりません。弊社では、高年齢者雇用安定法もあり、定年後の従業員はほぼ100%嘱託社員などとして再雇用しており、当該従業員もその家族も当然再雇用されるものと考えています。退職勧奨も検討していますが、これまでの経緯からは応じるとは思えません。弊社としては現状の働き方では任せられる業務もないため、障害者雇用であれば再雇用もありうると考えますが、当然給与等の条件が下がるため不利益変更とならないか心配です。再雇用すべきか、すべき場合の留意点を教えてください。

A2
総論

 このような従業員が一般的な再雇用の条件で雇用継続を求めた場合には、従前に休復職を繰り返していることや、これまでの業務遂行状況等に照らして同条件での再雇用は難しいと伝えた上で、障害者雇用も含め、より軽易な業務内容を前提とした再雇用の条件を提示し、同意が得られるように誠実に対応していただくとよいと考えられます。

詳論

 高年齢者雇用安定法では、高年齢者がその意欲と能力に応じて65歳まで働くことができる環境の整備を図るため、65歳までの高年齢者雇用確保措置を講じることを事業主に義務付けています(同法9条1項)。
 しかし、厚労省の指針(※)によれば、「心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。以下同じ。)に該当する場合には、継続雇用しないことができる。」と定められています。

※ 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針(平成24年11月9日厚生労働省告示第560号)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/dl/tp0903-560.pdf

 就業規則(嘱託規程を含む)等の再雇用条件の定めにもよりますが、本件のように休復職を繰り返し、定常化されていないテレワークでの復職を要求するなど、債務の本旨に従った労務提供が殆どできていない場合、上記の退職事由又は解雇事由に該当する可能性が高いと思われます。もっとも、上記の事由に該当するかは、これまでの本人の勤務状況や人事考課、上司や同僚からの意見、客先からのクレーム等の客観的事実から明らかにする必要があり、その上で、具体的事実を示しながら、一般的な再雇用条件での再雇用が難しいことを丁寧に説明していただく必要があります。こうしたケースは本来、労務管理上の問題であるため、産業保健スタッフからではなく人事や労務スタッフが対応するのが適切と言えます。

 一般的な再雇用条件による再雇用が難しい場合であっても、直ちに再雇用しないと判断するのではなく、障害者雇用も含め、より軽易な業務での再雇用が可能であれば、その条件を本従業員に提示して、合意の上で再雇用を行うことが適切と考えられます。
 高年齢者雇用安定法上は、高年齢者雇用確保措置を講じて65歳までの「雇用の機会」を付与すれば足り、会社が定めた65歳未満の定年後の継続雇用を行う場合にいかなる労働条件を提示するかは会社に一定の裁量があるものと考えられます(トヨタ自動車ほか事件・名古屋高判平成28年9月28日)。
 ただし、社会通念上、当該従業員に対して雇用継続の機会を与えたと認められない場合には、当該会社の対応は上記趣旨に反するものとして違法と判断されるおそれがあるため(同裁判例)、合理的な理由が必要となります(九州惣菜事件・福岡高判平成29年9月7日)。

 本従業員は、精神疾患により3回休復職を繰り返しており、業務遂行状況等に照らして通常業務を行うことが難しいとのことですので、そうした事情が客観的事実から明らかであれば、より簡易な業務に就かせ、格付けを下げることもやむを得ないと考えられます。
 降格に応じ、賃金が再雇用前に比べて一定程度減少することは当然といえますので、上記正当な理由についても合理的に説明でき、直ちに違法と判断される可能性は低いでしょう。

 もっとも、職務遂行能力や職務内容、待遇などについて労使双方で認識の相違が生じる可能性がありますので、無用なトラブルや紛争を防ぐためにも、再雇用条件の根拠や業務内容及び職場環境等について就業規則等に規定しておくと共に、対象者らに対して必要な情報提供や丁寧な説明を行うことが求められます。また、これまでに指導履歴等が無く一般的な再雇用条件よりも低い待遇を提示することが難しい場合には、まずは1年の有期雇用契約とし、1年後の再雇用時に求める業務水準に達していなければ条件を見直すという点を事前に決めておくことも考えられます。

 

 

産業保健職の現場課題についてのQ&A | 日本産業保健法学会 (jaohl.jp)