Q2 新型コロナウイルス流行に伴い会社が「従業員は原則在宅勤務」を決定したところ、メンタルヘルス不調により長らく休職していた従業員が在宅勤務での復職を希望した場合、会社は当該従業員の復職を許可すべきでしょうか?
A 基本的には経営判断によりますが、その判断をルール化して周知する必要があります。
すなわち、復職判断は、雇用契約上本来果たすべき業務(債務の本旨に従った履行)を果たせるようになったか否かによりなされます。具体的には、①休職前に就いていた業務を果たせるようになった場合、②2-3ヶ月の就業上の配慮(業務軽減等)を経れば、休職前に就いていた業務を果たせるようになった場合、③雇用契約上配置可能性がある他の業務のうち遂行可能なものを労働者が申し出て、労使間で調整可能な場合、の3種類になります。しかし、いずれも、雇用契約上本来果たすべき業務を遂行できることを前提にしています。よって、事業者が、在宅勤務をあくまで新型コロナに対応するための一時的、臨時的な勤務であり、雇用契約上の本来業務ではないと位置づけるのであれば、それを遂行できるからといって、復職を認める必要はありません。本来の雇用とは別の臨時雇用として、それに応じた処遇をすれば問題ありません。また、在宅勤務では、復職後の経過観察が難しいので、在社勤務の場合よりも、若干復職条件を引き上げることもできるでしょう。ただし、在宅勤務の位置づけをルール化して労働者に周知する必要があります。また、業務の実質が本来業務と変わらない場合や、在宅勤務が定常化するようであれば、話が変わってきます。
【解説】
1 傷病による休職から復職するための要件として、多くの事業者の就業規則では、「従前の職務」を通常の程度に行うことができる健康状態に復していることを求めています。
「従前の職務」について、最近の裁判例(片山組事件(最一小判平成10年4月9日労働判例736号15頁)、独立行政法人農林漁業信用基金事件(東京地判平成16年3月26日労働判例876号56頁)、日本電気事件(東京地判平成27年7月29日労働判例1124号5頁)等)の傾向を踏まえると、その労働者が休職前に従事していた職務だけを基準として能力回復の有無を判断することは適当ではなく、その労働者が雇用契約上求められている本来の労務提供を基準として復職の可否を判断することが適当です。これは、休職前に従事していた職務以外に遂行可能な職務がある労働者にとっては、復職可能性を広げることになりますが、逆に、そもそも休職前に従事していた職務が、雇用契約上本来遂行すべき業務ではなく、能力不足などのため、特別な配慮のもとに割り当てられていた職務であったような場合、たとえその職務を遂行可能な状態に快復しても、復職を認める必要はないことになります(上記独立行政法人農林漁業信用基金事件東京地判 )。
2 当然ながら、復職のし易さは、労働者の契約上特定された/配置可能な職種にも左右されます。専門的な知識や職人的な技能によって自分のペースで黙々と取り組めるような職務であれば、通勤の負担や人間関係の煩わしさがない在宅勤務であれば、メンタルヘルスに多少の懸念があったとしても職務を遂行できるかもしれません。他方、上司や同僚と必要なコミュニケーションや協力・連携しての作業をすることが求められる職務であれば、たとえ在宅勤務であったとしても、メール、電話、Web会議等を駆使して、オフィスでの勤務にも増して効率的・効果的に意思疎通をとらなければならないため、メンタルヘルスの回復が、より一層求められるかもしれません。
また、労働者のメンタルヘルス不調の性格や程度も影響を及ぼすでしょう。例えば、通勤や職場での感覚過敏による苦痛が就労の支障になっていたのであれば、そのような苦痛がない在宅勤務の方が、むしろ復職し易いかもしれません。一方、上司や同僚とのコミュニケーションを適切にとれないことでストレスを抱えてメンタルヘルス不調になっていた経過があれば、その根本問題が究明され、適応できる見込みが立たない限り、復職させるのは危険かもしれません(ただし、疾病休業の趣旨からは、原則として、臨床症状が改善すれば、復職させ、職務能力等にかかる根本的な問題には、復職後の労務の評価によって対応すべきことになります)。
3 以上の通り、事業者は、雇用契約上本来果たすべき業務の範囲で、労使間にて調整できる業務が現にあれば、当該労働者を復職させることになりますが、在社勤務の場合より復職後の経過観察が難しいため、復職計画で克服すべきハードルをやや高めに設定することは、たとえ司法審査に付されても、合理的と認められるでしょう。
以上
(参考文献)
三柴丈典.休職法と法~一律的な判断基準に代わるもの~⑺:産業医学ジャーナル.43⑶.2020.
〈執筆者〉
淀川 亮(弁護士法人英知法律事務所・弁護士)
小島 健一(鳥飼総合法律事務所・弁護士)
三柴 丈典(近畿大学法学部・教授)