Q2:在宅勤務と復職

Q2 新型コロナウイルス流行に伴い会社が「従業員は原則在宅勤務」を決定したところ、メンタルヘルス不調により長らく休職していた従業員が在宅勤務での復職を希望した場合、会社は当該従業員の復職を許可すべきでしょうか?

 

A 休職前に従事していた職務には必ずしも限定せず、当該従業員において雇用契約上求められている本来の労務提供がどのようなものであるかを見極め、社内にそのような職務があるかを検討し、在宅勤務でも健康上の問題をひき起こす懸念なく、そのような職務を遂行できる健康状態であるか否かを基準として復職の可否を判断することが適当でしょう。


【解説】

1.傷病による休職から復職するための要件として、多くの会社の就業規則では、「従前の職務」を通常の程度に行うことができる健康状態に復していることを求めています。「従前の職務」とは、基本的には、その従業員が休職する前に従事していた職務を指します。事務職であれば、毎日、定時に、会社のオフィスに出勤し、上司や同僚と一緒の職場で仕事をすることが前提となる働き方でしょう。ところが、メンタルヘルス不調が重ければ、自宅から外出することさえままならないことがあり、会社への出勤は、メンタルヘルス不調のある人にとって、なかなかハードルが高いものです。

新型コロナウイルス流行に伴い、現在、会社は、他の従業員についても、原則として在宅勤務をさせているため、復職するとすれば在宅勤務になる場合もあるため、「従前の職務」とは何かが問われてきています。そのようなことから、この従業員は、会社に出勤するのは未だ難しいけれども、在宅勤務であれば今の自分にもできるかもしれないと考えたのかもしれません。

そこで、改めて、就業規則の「従前の職務」という文言に込められた意味を考えてみる必要があります。それは、たまたま休職前に就いていた職務と理解して良いのでしょうか。むしろ、その従業員が会社との雇用契約で本来求められている仕事が何か、法律用語では、雇用契約の「債務の本旨に従った履行」とは何か、ということではないでしょうか。

この点、最近の裁判例(片山組事件(最一小判平成10年4月9日労働判例736号15頁)、独立行政法人農林漁業信用基金事件(東京地判平成16年3月26日労働判例876号56頁)、日本電気事件(東京地判平成27年7月29日労働判例1124号5頁)等)の傾向を踏まえると、その従業員が休職前に従事していた職務だけを基準として能力回復の有無を判断することは適当ではなく、その従業員が雇用契約上求められている本来の労務提供を基準として復職の可否を判断するのが適当です。

なお、前記独立行政法人農林漁業信用基金事件東京地判は、「復職が認められるには、休職原因となった傷病の治癒が必要で、治癒というには、原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態への回復を要するが、そうでなくても、当該従業員の職種に限定がなく、他の軽易な職務なら従事できて、その職務への配転が現実的に可能か、当初はそうした職務に就かせれば程なく従前の職務を通常に行えると予測できる場合なら復職を認めるべきである」とした上で、「復職に当たって検討すべき従前の職務について、彼が実際に担当していた職務を基準とすべきではなく、信用基金の職員が本来通常行うべき職務を基準とすべきである」と述べました。もともと本来の職務を遂行できず、恒常的に業務上の支障を生じさせていた労働者が病気休職から復職するための休職事由の解消の有無を判断するにあたり、休職前の職務の遂行能力ではなく、本来の職務の遂行能力を基準にしています。

2.では、当該従業員において雇用契約上求められる本来業務とは、どのような職務でしょうか。例えば、専門的な知識や職人的な技能によって自分のペースで黙々と取り組めるような職務であれば、通勤の負担や人間関係の煩わしさがない在宅勤務であれば、むしろ、メンタルヘルスに多少の懸念があったとしても職務遂行ができないわけではないかもしれません。一方、上司や同僚と必要なコミュニケーションや協力・連携しての作業をすることが求められる職務であれば、たとえ在宅勤務であっても、メール、電話、Web会議等のツールを駆使して、オフィスでの勤務にも増して効率的・効果的に意思疎通をとらなければならないため、メンタルヘルスが十分に回復していることが、より一層求められるかもしれません。

このように、当該従業員が雇用契約上求められる本来業務は一律的に決まるものではなく、仮に在宅勤務がそれに当たると認める場合にも、却って復職のハードルが上がることもあれば、下がることもあるでしょう。

また、当該従業員のメンタルヘルス不調がどのようなものであるのかによって、判断は異なり得るでしょう。例えば、通勤や職場での感覚過敏による苦痛が就労の支障になっていたのであれば、そのような苦痛がない在宅勤務の方が、むしろ復職をし易いかもしれません。一方、上司や同僚とのコミュニケーションを適切にとれないことでストレスを抱えてメンタルヘルス不調になっていた経過があり、復職後、所定業務を果たすには、たとえ在宅(オンライン等)であってもそうしたコミュニケーションが不可欠なのに、それが可能な状況になっていないのであれば、復職させるのは危険かもしれません。

言うまでもなく、社内等での勤務が雇用契約上の本来業務の一環であれば、在宅勤務明けに社内での就業が適切に果たせるかも、当然に復職判断の指標となり得ます。在宅勤務なら可能だが、社内等での勤務は困難という場合、在宅勤務が雇用契約上予定された本来業務でない限り、復職させる必要はないでしょう。もっとも、2-3ヶ月の間、在宅勤務をさせることで、社内等での本来業務を果たせるようになることが見込まれる場合、復職させるべきでしょう。

そもそも、このような検討を行うためには、当該従業員の休職に至るまでの経緯、休職期間中の心身の状態と主治医への受診状況、会社との必要なやりとりや課題提出、リワーク参加等といったそれまでの一連の事実経過、さらには、職場復帰した後に従事させる職務の性格や人事、上司等によるサポートの程度を把握する必要があります。

その上で、上述のような当該従業員の本来の職務を前提とした主治医の意見、会社の職場事情に精通した産業医の総合的な意見を求め、最終的には会社が、当該従業員の職場復帰の可否について判断しなければなりません。

さらに、復職後のことを考えてみると、在宅勤務による職場復帰の場合、勤務を始めてから再び調子を崩した場合の早期のケアに難しさがあります。すなわち、通常より、ご本人-産業保健スタッフ-上司間の調整やフォローアップがおろそかになり、産業医の介入も遅くなりがちです。また、在宅勤務は、職場における勤務以上に本人による自己管理が必要であり、会社(上司等)から本人の健康状態と職務遂行状況を把握することが容易ではないため、安全配慮と業務管理の観点から、メンタルヘルス不調からの回復が十分ではない従業員を在宅勤務であるからといって安易に復職させることは適切ではないことが少なくないでしょう。

会社側は、以上の事情を総合考慮し、復職後の定着の可能性を適切に見極められるよう適切なハードルを盛り込んだ復職ロードマップを策定し、本人のインフォームドコンセントを丁寧に得たうえで、復職の可否を判断することが適当でしょう。その意味では、就業面、健康面での管理が難しい在宅での復職は、通常の復職の場合より、観察期間や克服すべきハードルを若干高めに設定することが合理的な場合もあると思われます。

以上


(参考文献)

三柴丈典.休職法と法~一律的な判断基準に代わるもの~⑺:産業医学ジャーナル.43⑶.2020.

 

〈執筆者〉
淀川 亮(弁護士法人英知法律事務所・弁護士)
小島 健一(鳥飼総合法律事務所・弁護士)