Q23:PCR等の検査を義務付けることの可否

Q23 ①発熱等の風邪症状を呈した労働者に対し、PCR検査を受けるよう業務命令を行うことは許されるでしょうか。また、②事業継続の観点から定期的にPCR検査を受けるよう業務命令を行うことは許されるでしょうか。

A ①については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する必要性のある職場において、このような労働者に対し、当該事業場内の他の労働者や顧客等への新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐ目的で、PCR検査を受けるよう業務命令を行うことは有効であると考えられます。②についても、同感染症の感染拡大を防止する必要性の高い職場において、検査費用を使用者負担とし、対象者を全員又は合理的な基準に従い選定された者とすることにより、同様に有効であると考えられます。


【解説】

1 PCR検査を業務命令で指示する行為の有効性
 使用者による業務命令は、当該命令が労働契約の範囲内の事項であり相当な命令である限り、労働者はこれに応じる義務があると解されます。
 本件の①発熱等の風邪症状を呈した労働者に対するPCR検査の業務命令は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する必要性のある職場において、他の労働者らの感染を予防し、健康を保持するという合理的な目的に基づくものといえます。また、PCR検査の唾液検査等は、ワクチン接種とは異なり、人体への医学的な侵襲行為を伴うものではなく、副反応等の健康障害のリスクも確認されておらず、被検査者に対する不利益は大きくないといえます。本件のPCR検査の業務命令は、上記目的に照らして合理性ないし相当性を肯定し得る内容の指示であるということができ、有効といえるでしょう(なお、就業規則上明文の規定がない場合でも、当該業務命令は、労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置として有効と考えます。京セラ事件(最判昭和63年9月8日労判 530号13頁、東京高判昭和61年11月13日労判 487号66頁参照))。なお、検査費用は使用者負担とすることが望ましいです。
 また、②事業継続の観点からの定期的なPCR検査の業務命令についても、当該対象者の風邪症状等を前提とするものではありませんが、医療・高齢者施設等の重症化リスク等の高い顧客と接触する業務や、多数の顧客又は労働者と接触する業務等、感染拡大防止の必要性が高い場合において、検査費用を使用者負担とし、対象者を必要かつ画一的な範囲とすることにより、同様に有効であると考えます。

2 有効なPCR検査の業務命令に従わない労働者に対する措置
⑴ 就労拒否と賃金支払義務
 このような労働者が業務命令に従わない場合、その労務提供の受領を拒否することは、他の労働者に対する安全配慮義務や事業継続目的の観点から正当な理由があり、債権者(すなわち使用者)の責めに帰すべき事由(民法536条1項)がないとして、賃金の支払を拒むことができると考えます。ただし、当該受領拒否が不可抗力によるものと評価できない限り、休業手当(労働基準法26条)を支払う義務はあるものと思われます。
⑵ 懲戒処分
 懲戒処分の有効性は、労働契約法15条に従い判断されます。
 このような労働者に対し、PCR検査を受けるよう説得し、業務命令を発してもこれに従わない場合に、就業規則上の懲戒処分規定に基づき懲戒処分をすることは、労働者の当該行為の内容(例えば当該業務命令に従わない期間や回数)や処分の内容、労働者本人への弁明の機会の付与など手続を履践したか等の事情によっては、労働契約法15条に照らしても適法とされることがあると考えます。

以上


〈執筆者〉
吉田 肇(弁護士法人天満法律事務所、弁護士、元京都大学客員教授)
鈴木 悠太(弁護士法人天満法律事務所、弁護士)