Q22 新型コロナウイルス感染症のため労働者を休業させる場合、賃金又は休業手当は支払う義務があるのでしょうか。

A 労働者本人を休業させる理由によって、賃金又は休業手当の支払義務の存否の判断が分かれます。
 ①労働者本人が新型コロナウイルス感染症に感染したことを理由に休業させる場合は、2022年12月現在の法制度を前提とする限り、賃金及び休業手当の支払義務はいずれもないと考えられます。一方、②労働者本人が濃厚接触者となったこと、及び③労働者本人が(新型コロナウイルス感染症に感染したとの検査結果がない段階で)発熱等の風邪症状を呈したことを理由に休業させる場合は、少なくとも休業手当の支払義務はあるでしょう。
 一方、④労働者と同居の家族が新型コロナウイルス感染症に感染したことを理由に休業させる場合、少なくとも休業手当を支払う義務があるでしょう。⑤労働者の家族が濃厚接触者となったことを理由に休業させる場合、賃金全額の支払義務があると考えられます。


【解説】

 前提として、賃金(全額)及び休業手当(平均賃金の60%以上)の支払義務の関係性は、次のとおり整理されます。
 労働者を休業させる理由(労働者の判断で欠勤、休暇取得する場合は除きます。)が、「債権者(ここでは使用者)の責めに帰すべき事由」(民法536条2項)である場合は賃金全額の支払義務が、「使用者の責に帰すべき事由」(労働基準法26条)である場合は休業手当の支払義務が生じます。なお、後者の帰責事由の方が、前者のそれよりも広いものと解されています。
 そこで、新型コロナウイルス感染症対応のため労働者を休業させる場合、その休業させる理由が上記の各帰責事由に該当するか否かが問題となります。

1 労働者本人の体調、健康上の理由で休業させる場合
⑴ 労働者本人が新型コロナウイルス感染症に感染し休業する場合
 新型コロナウイルス感染症に感染し、都道府県知事が行う就業制限(2022年12月現在)により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられ、賃金及び休業手当の支払義務はありません。
 なお、現在は医療機関から発生届があった場合にも就業制限を行わない運用としている自治体もあるようですが、就業制限によらずに労働者を休業させる場合、使用者の労務管理上の判断すなわち「使用者の責に帰すべき事由」による休業となり、休業手当の支払義務があると考えられます。また、今後同感染症が感染症法上5類に移行した場合も、同感染症に感染した労働者を休業させる際は就業制限によらないこととなり、同様に休業手当の支払義務があると考えられます。
⑵ 労働者本人が濃厚接触者となり休業させる場合
 濃厚接触者は、患者との最終接触日から5日間の自宅待機を行い、健康観察を7日間行うこととされています(2022年12月現在)。
 使用者が濃厚接触者と判定された労働者を就労させない措置は、上記要請に応じ、また労働者の安全配慮の観点からも正当な理由があるものとして、賃金全額の支払義務はないと考えられます。
 他方、濃厚接触者に対しては、法律上、強制力ある就業制限はなく、上記要請に応じる努力義務があるとされるにとどまります。原則として、濃厚接触者に対する休業の指示は、使用者の経営、管理上の判断すなわち「使用者の責に帰すべき事由」による休業となり、休業手当の支払義務があると考えられます。
⑶ 労働者本人が(新型コロナウイルス感染症に感染したとの検査結果がない段階で)発熱等の風邪症状を呈した場合
 労務管理上は、本人及び他の労働者に対する安全配慮義務の観点等から、本人を休ませることが望ましく、また厚労省も、発熱や咳などの症状がある場合、仕事を休むよう推奨しています(新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)問5)。本人が出勤を希望する場合に、使用者が労務の受領を拒否することは、上記の安全配慮義務や厚労省の要請の観点からも正当な理由があると考えられ、賃金全額の支払い義務はないと考えられます。
 しかし、上記の厚労省の要請も、上述の就業制限とは異なり、法的強制力はありません。使用者が、このような労働者を一律に休業させる場合は、経営、労務管理上の判断すなわち「使用者の責に帰すべき事由」による休業となり、休業手当を支払う義務はあるでしょう。

2 労働者と同居の家族が新型コロナウイルス感染症に感染、濃厚接触者となった場合
⑴ 家族が感染したことを理由に休業させる場合
 この場合、労働者本人も濃厚接触者とされる可能性がありますが、濃厚接触者とされた場合については上記1⑵をご参照ください。
 一方、労働者本人が濃厚接触者であるか否かの認定までに時間を要する場合があり、それまでの間も使用者の経営、労務管理上の判断で休業させる場合は、休業手当を支払う義務があります。ただし、濃厚接触者と認定される可能性がある状況であるため、本人及び他の労働者に対する安全配慮義務等の観点から、労務の受領拒否に正当な理由があり、賃金全額の支払義務はないものと考えられます。
⑵ 家族が濃厚接触者となったことを理由に休業させる場合
 この場合、労働者本人は濃厚接触者ではなく、発熱等の風邪症状もないのであれば、本人及び他の労働者に対する安全配慮義務等の要請も認めがたく、労務の受領拒否に正当な理由はないと思われ、賃金全額の支払義務があると考えます。

3 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、協力要請などを受けて営業を自粛し、労働者を休業させる場合については、Q3をご参照ください。

以上


〈執筆者〉
吉田 肇(弁護士法人天満法律事務所、弁護士、元京都大学客員教授)
鈴木 悠太(弁護士法人天満法律事務所、弁護士)