【質問例】
・産業医がワクチン接種を勧奨し、健康被害が生じた場合の責任の有無
→業務マニュアル(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_shokuiki.htmlにある手引き等)、定型書式に沿った定型的な業務を行う限り、(そのマニュアル等の不備に関わる)責任を負うことは原則としてない。マニュアル等から逸脱して、「予防接種不適当者及び予防接種要注意者」とされる者について接種勧奨を勧奨したり、実施した場合などに例外的に過失責任を負い得る。
・ワクチン接種業務と産業医業務契約の違いについて
別物として新たな契約の元に接種業務をするべきか
副反応に対する責任と、副反応に関わる業務が生じた場合の報酬について(診療行為として扱うか、産業医業務の一環か)
→厳密に言えば、産業医業務にも医行為が含まれていると解され(面接指導結果報告における診断的判断、それに基づく就業上の配慮の勧告、健診を自ら行う場合には、臨床検査的行為(臨床検査技師に任せるような検査)など)、産業医契約上の業務からワクチン接種を完全に排除できるかは、その契約内容の解釈による。
たしかに、一般的にはワクチン接種までは含まれないだろうが、現在は、医療法上の診療所登録の特別扱いを含め、政府全体がワクチン接種を精力的に進めようとしており、産業医制度も公的制度とすれば、安衛則第14条の規定を契約解釈に活用し、接種への協力は契約の一内容と解される可能性はある。ただし、一定範囲での追加報酬の請求は、合理的と解されよう。
・企業に雇用されている保健師が接種業務を会社から指示された場合、従わなければならないのか。本来の雇用契約外として追加報酬は生じるか。職域接種に携わる産業保健職が健康被害に関する責任を問われることはあるか”
→保助看法上、看護師であれば、医師の指示・監督の下で「診療の補助」として接種を行うことができる。企業との関係で、指示に従うべきかは、基本的には、会社の就業規則、その保健師と会社の個別の契約内容による。ワクチン接種を読み込めるような定めがなければ、理論的には拒否するか、追加報酬を求めて交渉できるが、訴訟となれば、裁判所も、職域接種に協力する会社に有利な契約解釈等を行おうとすると察せられる。接種に伴う産業保健職の法的リスクも、産業医の場合と同様に、業務マニュアルや書式に沿った業務を行う限り、原則として責任は負わない
【回答例】
上記の通り。
<執筆者>
三柴 丈典(近畿大学法学部教授)