「組織における制度と文化~社会心理学の視点から~」を聴講して
「組織における制度と文化~社会心理学の視点から~」を聴講して
日本製鉄関西製鉄所/NS メディカル・ヘルスケアサービス 産業医 岩根幹能
要旨
自分の考えとは異なるが、他人に合わせた行動を取ってしまうことは多々ある。男性育休制度のように、時代に即した新たな制度ができたとしても、それを利用することを躊躇するのは端的な事例である。従業員の心理や行動は職場の制度よりも文化によって規定される。すなわち、男性育休を自分は良い制度だと思っているのだが、他の人はそう思っていないだろうと考えている状況では育休取得はできない。そして、このような推測を従業員の多くが持っている場合には育休取得に否定的な文化が維持されることになる(組織慣性)。実際には多くの従業員が育休取得を是と考えているならば、他の人が否定的との推測は誤っていることになる。この状況を「多元的無知」という。また、新たに男性育休が制度化されたのに従業員の価値観がついていけず、本当に取得して良いのか?と不安や混乱が生じるような状況を「Cultural lag:分化遅滞」という。新しい変化には多元的無知が必然的に生じるためである。流動性・多様性が低い組織では阿吽の呼吸が存在するがために、かえって互いの本音が明かされにくく、多元的無知が維持されやすい。多元的無知を生じさせないためには、率直なコミュニケーションが繰り返される職場づくりが重要である。Cultural lag を解消するためには個人の考えを変えるだけでは不十分であり、新しい行動を起こす人を増やすことが求められる。
感想
本講演の内容はまさに集団心理の本質をついていると感じました。自身の信念を通したいと願う一方、組織の中にいる以上、他者の意向を気にしてしまうことは避けられないと思います。しかしながらそれは、必ずしも他者の意向を確認しているわけではなく、勝手に想像しているだけのことも多いのではないでしょうか。多元的無知が組織のありように大きく影響することを全員が知ることが有効なのかもしれないと感じました。