日本産業法学会 広報誌「喧々諤々」インタビュー

日本産業法学会 広報誌「喧々諤々」インタビュー

日時  令和4年4月22日15時~16時30分
参加者 和田 耕治(佐賀障害者職業センター 主任障害者職業カウンセラー)
    林田 彩(佐賀障害者職業センター 障害者職業カウンセラー)
    桜井なおみ(キャンサー・ソリューションズ 代表取締役社長)
聞き手 小島 健一(鳥飼総合法律事務所 弁護士)
    彌冨 美奈子(株式会社SUMCO  統括差産業医)
    五十嵐 侑(産業医科大学災害産業保健センター 助教)

 

オープン就労とクローズ就労をめぐる課題の向こうへ
~採用選考過程における健康状態の真実申告義務の存否、質問・収集の適否を題材に~

<はじめに>

小島 最初に、今回の企画の背景について、私の方から説明いたします。
 産業保健法学会のホームページ上で公開する会報の記事として、「喧々諤々」というコーナーを企画しました。このコーナーでは、意見が激しく対立し、立場によって色々な見方があるトピックについて、率直な議論やリアルな実態を土俵に上げると共に、もっと違う切り口や考え方ができないのかということまで探っていこうと思っています。
そこで、真っ先に思いついたテーマが、「採用」における病気や障害の扱いです。採用選考の過程で、労働者は自分の病気を事業主にオープンにしなければならないのか、また、事業主は労働者に対して病気のことを質問していいのか、という疑問について、法律論がはっきりしていなくて、立場によってまったく違うことを説明しているような状況です。一方で、障害のある労働者も、就職活動をする際に、障害をオープンにするか、クローズにするかということで悩んでいるとうかがっています。
事業主は、採用選考時から労働者の健康状態を知っておく必要があるという話に行きがちになると思いますが、労働者からすれば、病気をオープンにしてしまうと、事業主はリスクを嫌って、そもそも採用してくれない、という懸念があるわけです。一方、障害のある労働者にとって、採用時から障害をオープンにする意味は、求められる仕事ができるようにするためにボトルネックになることを調整してもらったり、変更してもらったりという、前向きに、仕事をするためにお願いすることがあるという文脈になります。しかし、障害者雇用ではどうしても給料が安くなるという実態がある。そこで、通常の雇用で採用してもらおうと思うと、障害を言うことができない。言わないと、採用されてからビクビクして仕事を続けなければいけないし、配慮を求めたくても言えない。とうとうオープンにして言うと、「何で今さら」という話になる。このジレンマですよね。
 そこで今日は、われわれが法を教えるということではなく、むしろ法が学ばなければいけないことを考えていきたいと思います。病気や障害を持ちながら働く当事者、あるいはその支援者の皆さんにお集まりいただきましたので、現場感覚、実際の事例など、生々しいことを色々うかがい、それを本学会の会員の方々や一般の社会の方々に共有してもらい、何が問題かをみんなで考えてもらいたいと思います。

 

<自己紹介>

和田 佐賀障害者職業センターの主任障害者職業カウンセラーをしています和田と申します。

林田 同じセンターの障害者職業カウンセラーの林田です。よろしくお願いいたします。

桜井 一般社団法人CSRプロジェクトの代表でがん患者さんの就労支援をしています桜井です。また、CANSOLという、スタッフ全員ががん患者さんという会社を経営しております。
 私自身も当事者なのですが、採用する側の目線も少しあるので、そういう感じでお話ができればなと思っています。

彌冨 専属産業医をしております。佐賀障害者職業センターの和田さんや林田さんは、リワーク支援やジョブコーチ支援でお世話になっています。当社の産業医や在籍型ジョブコーチと連携しながら、外部から支援をしていただいています。

五十嵐 産業医をしています五十嵐と申します。今年の4月から母校の産業医科大学に戻り、災害産業保健センターで助教を務めています。これまで産業医として色々な方の復職支援に携わってきました。小島先生がお話しくださった問題意識は、特に労使の利害が対立しやすい部分で、実務者の多くが困っているところだと思います。産業保健法学会は、こういうところをうまく議論として整理していくことが、ひとつの大きな役割だと思っています。実を申しますと、障害者雇用の世界での「オープン就労」「クローズ就労」という言葉自体、僕は初めて聞きました。たしかに当たり前と言えば当たり前なのですが、そのことが当事者からするとけっこう大きな分かれ道かと思いました。

小島 私は弁護士として、一般社員の方がメンタル不調、精神疾患になって休復職でトラブルになるのを防ぐというような仕事をメインにしています。しかし、ご縁をいただいて、障害者の就労移行支援事業所であるとか、ジョブコーチの方々とも交流させていただいています。障害者雇用の世界も多少、垣間見させていただき、障害者雇用の世界で起きていることが、人事労務を含めてですが一般の社員の産業保健に非常に役に立つので、産業保健と障害者雇用の交流も必要だなと思っています。今回の企画もそうしたもののひとつになればと思っています。
 まずは、障害者職業センターのみなさんから、日ごろのお仕事を少しご紹介いただきながら、障害者の就労を支援していくときに、採用時に障害をオープンにするのか、あるいはしないのかというところでどのような悩みの実態があるのかについて、うかがえますでしょうか。

 

<オープン就労・クローズ就労の実態>

和田 私たちの組織名が障害者職業センターということもあり、基本的には障害がある方たちが私たちのところにいらっしゃいます。明確に診断がある方たちの中でも、障害のことを言って就職するのか、あるいは言わないで就職するのか、多くの方が悩まれた状態で相談にいらっしゃいます。
 悩む理由ですが、当然だと思いますが、言うことによって自分にデメリットが生じるのではないかということです。デメリットとは、差別にさらされるのではないかとか、差別とまでは言わないまでも、奇異な目で見られるのではないかという不安がある。また、労働市場で考えると、障害を開示して就職する場合はとくに佐賀のような地方ですと正社員としての採用がとても少なくなってしまうということで、収入的にもデメリットがあるのではないかという不安を持っていらっしゃる方が多いです。
 私たちが相談対応する時には、まずはオープン・クローズのどちらも「あり」だというところからスタートします。
 そのうえで、どちらのほうがよさそうかなということをご本人と一緒に考えていくのですが、やはりうまくいかなかった経験をしている方のほうが多いので、どちらかと言いますとオープンにしたほうが働きやすいのだろうなと考える方が、割合としては多いです。
 ただ、その時のデメリットによってどうしてもそれは選べないという悩みを抱える方も多いので、一概にオープンがいいとかクローズがいいとはなかなか言いにくいということをふだんの支援では感じています。
 オープンにするというのは障害者雇用枠の就職ということになるのですが、この障害者枠の就職もあくまで制度上のものであって、企業側にとっては、障害者雇用率にカウントできるということがポイントになっているのだと思います。

小島 ハローワークに障害者のための相談窓口があって、そこに障害者の求人が集まっているから、そこでの就職は障害者雇用枠だと言っているだけであって、本来の雇用契約は一般就職と同じでなければならず、賃金に差があってはいけないと理解しているのですが、事実上、障害者雇用として採用するときには、期間を限って正社員ではなく、賃金も安めになってしまうという実態があるのだということをおっしゃられたと思っているのですが。

和田 そうです。

小島 診断を受け手帳も持っているけれども、障害者雇用枠で就職するのではなくて、かつてやっていたような仕事をやりたいということで就職する場合は、それは言わないで就職するということになるのですか。採用面接時から状況や相手によっては言おうとか、あるいは採用が決まったあとで言おうとか、そういうことはどのように相談がされているのですか。

和田 生々しいのですが、本人がやりたい仕事が障害者求人に出てきたら、オープンでの就職について相談します。一方で仕事の内容や職場環境などから、障害のことを開示しないで就職してもどうにかやっていけるかもしれないという場合は、心配だけれどもクローズでの就職について相談をすることもあります。
 本人に伝えなければいけないと思うのは、それでもうまくいかなくなる可能性があるということで、そこのところは本人と共有をしていきます。うまくいかなくなった時に、また一緒に相談しましょうという話をしながら送り出すと思います。
 クローズで就職した場合は、私たちは職場には行けないのですが、本人との相談はできるので、「うまくいかなくなってきたとか、ちょっとおかしいなというぐらいの時に相談に来てくださいね」と言って送り出したりします。
 就職後に相談を受けた際、会社の状況や規模、私たちがもともと持っている事業主の情報にもとづいて、本人に「会社に障害のことを伝えてみましょう」というアドバイスをすることもあります。ただそうするとますますしんどくなりそうだという時には、今の環境で自分の行動を変えてうまくいきそうな方法を考えてみることや、精神的な負担が大きくなる前に、退職することについて相談することもあります。

 

<面接で既往歴・現病歴を聞かれる場合の対応>

五十嵐 実際の面接の場面において、基本的には今は病気のことは質問されないのではないでしょうか。あるいは書く欄などがあるのでしょうか。聞かれた場合にどのように回答するとか、どのように支援されているのでしょうか。

和田 クローズで面接に臨んだ際、病気のことを聞かれた時に何と答えるかという話はよくしています。クローズの場合もおそらく仕事をする時にここはつまずくというところは、送り出す前に本人と(つまずくところを)共有することが多いので、それをどのくらいの濃淡で会社側に言っていくのかということは本人にお伝えして、場合によっては、面接練習のようなシミュレーションをしたりします。たとえばADHDの傾向があって、長い説明をされると全体像の理解が難しいという特徴がある方であれば、面接で「得意なことと苦手なことは何ですか」と聞かれた場合は、「同時にいくつもの処理を並行して行うのは難しい」ということを伝えましょうと言います。ただし苦手なことだけを伝えるのではなくて、それに対して「私はこういう工夫で対処しています」ということをセットで伝えましょうというアドバイスを本人にしています。

五十嵐 もっとピンポイントで、「病院に行っていますか」というような場合は、ほぼ答えは「イエスかノーか」でしょうから、そのような質問をされた時にどう答えるのか、というところはどうでしょうか。

和田 企業側が聞いてもいい質問かどうかというところが微妙だなと思います。答え方に悩むところではあるのですが、そこまでダイレクトな質問について本人と相談したことはないというのが実態です。もし相談をされたとしたら、まずはどうしようかと本人と一緒に悩むと思います。本人が言わないほうが安心だということであれば、「それなら行っていないと言おうね」という話をすると思います。しかし、隠していることのほうが苦しいという方もいらっしゃるので、その場合は「どこまで伝えるか考えよう」という話を本人とすると思います。たとえば「クリニックに通院しています」、「一時期に精神的に落ち込むことがあったので、今は安心のために定期的に通院していますが、現状ではこのように安定しています」というように伝えましょうという話をすると思います。

五十嵐 ありがとうございます。僕の理解では、会社にも採用の自由はあり、業務に関係がある範囲では聞いてもいいという感じの理解はしているのですが、病院に行っているかどうかを聞くのはちょっと微妙なことではあるかなと思うのですが、たとえば週に1回などで、勤務に支障をきたすような通院かどうかを判断する質問はどうなのでしょうか。小島先生、いかがでしょうか。意外にグレーな部分ですね。

小島 採用面接時には、業務に支障をきたさないかどうか、さらに第三者の安全に危害を及ぼすようなおそれはないのかという必要性がはっきりあって、そのために必要不可欠なものであれば、聞く意味や理由を本人に説明して、本人の同意を得たうえで聞きなさいというのが、厚労省の公式な立場だと思います。
 職安法にもとづいて出されている指針には、病歴や持病について具体的には書かれていないのですが、「その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」という「その他」のところにそれを読み込むと言いますか、そこに含まれているというふうに理解はしています。採用時の健康診断は、採用選考のためにやるのではないという通達も出ています。しかし、それとは別に採用選考のための健康診断をやったり、その結果の提供を求めたりすることを厚労省が禁止しているわけではないと解釈して主張している専門家もいます。厚労省もすべてについて完全に立場を明らかにしているのではない、曖昧さを残す言い方になっています。
 行政は、職安法に違反しているとしても、指導や勧告はできても、強制的にその契約を成立させたり、賠償を命じたりはできないわけです。実際にも、たしか大阪の大手の工場がアルバイトの面接でそういう質問をしたことが、行政の指導を受けてネット上にも出ました。大企業、一流企業は、行政の指導は気にしますので、採用面接のNG質問ということはかなり気にしていると思います。ただし、中小企業はそういうことは知りません。巷では、ネット上で、とくにメンタル、精神疾患については、「聞くべき」「聞いていいのです」と書かれている社労士さんや弁護士さんもいます。
 ところで、私は桜井さんから勧められて、抗がん剤の副作用である手のしびれなどを体験するために、軍手をして、その上にゴム手袋をして、それでボールペンを持って文字を書いてみたことがあるのですが、まったくうまく書けない。

桜井 抗がん剤の副作用による手のしびれとか皮膚障害の感覚が、その手袋を着けて日常動作を行うときの感覚と似ているので、それを体感してもらうためにやるものです。
そもそも、がん患者の場合は、同じ会社であっても、その人を就業させる場所・部署によっては、色々な薬で眠くなってしまわないかとか、手はきちんと動くのかとか、そういう配慮事項は聞かなければいけないでしょう。おそらく先ほどあったように聞く理由を説明してから聞くかどうかで、答える側の答えやすさも変わるだろうと思っています。
 理由を言ってくれれば、そういうことなのだと分かり、「今、薬を飲んでいるけれども、リズムと合っているので眠くならないから大丈夫です。業務には支障がないです」と言うか、あるいは眠くなってしまうのでしたら、「休憩時間がほしいかもしれないです」と言う。そのうえで働き方を考えるのが人事だと思うのです。
最近は、がんを言うか言わないかで悩んでいる人には、職務に影響するようなら最初から病名は言いましょうという話をしています。バスや車の運転などでしたら、最近は足がしびれたりする薬などもあるので、事故も起こしてしまいますから、きちんと状況を説明する必要があるでしょう。それは互いの信頼関係にもつながります。そういう意味で、自身のプレゼンテーション能力が非常に問われるようになっていると、私たちは思っています。
 言う、言わないについては、患者さんたちも言ったほうがスッキリするということで、会社側も言ってくれたことで、この人は誠実な人だと思うと言いますか、そういう安心感をもたらすということも出てきています。
ところが、メンタルの場合、がん以上に、人によってイメージに振れ幅があって、それが非常に大きいと思っています。
それから、労災になるという、労災の縛りが非常に大きいと思っているのですが、そのあたりはどうなのですか。がんでは労災にならないですが、メンタルは、言わないで、聞かないままに普通に働いてもらい、メンタルが悪くなって自死をされてしまって、それで労災申請をされたら、「えっー、それは聞いていない」ということであり、訴訟にもなってきますよね。おそらくそこはお互いが非常に気になるところだと思います。

小島 現行の労災の認定基準は、もともと持っている病気が悪化すること、つまり増悪については労災の対象になりうるのですが、精神疾患については、よほど特別に強い負荷がかかったような場合には、増悪でも労災を認定しますが、普通の人が労災を認められるぐらいの強い負荷と言われるものでは、増悪には労災を認定しないというのが今の認定基準です。したがって、もともと悪かった人が、もっと悪くなったら、すぐに労災になるかと言いますと、そのようにはなっていません。そこはむしろ自己責任の部分が労災の枠組みの中にもできています。
 障害者雇用でオープンの場合は、ある意味で安心して雇用できると言いますか、ちょっと悪くなってもそれはべつに労災になるわけではないので、という説明はしやすいですが、クローズで入ってくる、病歴が分からない人が、結局分からずじまいで悪くなったときの気持ち悪さというのはあると思います。
 がんが悪化しましたと言っても、なかなか労災にはならない。

桜井 ならないですね。メンタルは、がんよりも隠したがる人が多いと思っています。とくに地方の方はそうで、目の前の病院に行くのも嫌がりますから。
小島先生の今のような説明を聞けば雇用主側は非常に安心すると思いました。きっと病気ではなく人をみるようになりますよ。そうでなければ、いきなりメンタルと言われたら、メンタルの人というように見てしまう気がしました。

小島 がんの方はサバイバーがけっこう頑張って実績をあげて、活躍している人が多いので、それを見ているから周囲の人も雇い主側もフラットに見えると思うのですが、通常の雇用の世界でメンタル不調者は、基本的に仕事ができないとか、問題社員だという例ばかり見ているから、雇う側も「もうこりごり」というところがあるのですね。
 ところが、私も精神・発達障害の方やその支援者と交流するにつれて、その当事者は大変立派に頑張って前向きにやれていて、それを雇い主側も評価していることを知りました。本当は、障害者雇用がもっと普通に一般の職場に広がって欲しいのですが、まだなかなか広がっていかない。発達障害を含めた精神障害のある人たちの就職や働くということと、桜井さんたちがんサバイバーは、交流と言いますか、両者を比較して議論をしたりはしてきませんでしたか。

桜井 ないですね。がん患者は、けっこうメンタル疾患も併発したり、中には大人になって分かってきたという発達障害の方もいて、そういう方はやっぱり苦労したままで、その診断を受けずにがんのほうを先に診断されて、というケースもあります。メンタルで休職中で、同時にがんも治療中という人もいれば、メンタルで休んでいるうちにがんが分かったという人もいらっしゃる。日本はメンタルの敷居が高すぎる気がしています。よく精神科の先生と話をするのですが、普通に人に頼ればいいし、お薬を使えば効く時は効くので、人でも薬でも頼って、適正に使って、楽になるのならそれでいいのではないかと思ってしまうのですが。

 

<自身を説明するプレゼン能力・コミュニケーションスキルが大切>

彌冨 みなさん方のお話を聞いていて、雇用する側も雇用される側も互いに双方向のコミュニケーションを意識し、採用面接時にうまく相手を引き出すようなことがとても大事なことではないかと思いました。以前、大手企業の特例子会社の人事担当者で、発達障害の方を多く採用されている方とお話しする機会があったのですが、採用面接で「自分は何ができない」「こういうことをやってほしい」ということをきちんと説明できる人を採用しますとおっしゃっていました。

桜井 プレゼン能力ですよね。結局、仕事ができる人というのは、そういうことができる人なので。

彌冨 採用する側もされる側も相手からうまく情報を引き出したり、相手に情報をうまく伝えたりすることは、オープンだろうとクローズだろうと、その雇用をうまく働く人自身にフィットさせていくためには非常に大事なことなのだなと思います。

桜井 言うか言わないかで止まっていると、とてももったいないと私たちは思っています。「自分はこういう人間です、どうでしょう」というようにやる。私たちはよく、結婚みたいなものだからと言っていまして、合わない時は合わないのです。合わないところで苦労するぐらいだったら、合うところには必ず出会えるので、「自分はこんな者なのです、すみません」と割り切ってどんどん当たっていくしかないという考えではいます。また、そういうように助言してもいます。

和田 同感です。オープンかクローズかではなく、オープンならオープンで、どのように伝えるかが大事なので、それをうまく説明できてそれでも落ちてしまう場合は相性が悪かったのだね、という話をしたりします。

桜井 「次いこっ」という感じですね。

和田 そうです。そのほうがいいと思います。

 

<入社後の居場所確保・定着が大事-どんどん人に頼るのがコツ>

桜井 それよりも、そこで定着していくほうが非常に難しくて、言うか言わないかよりも、そのあと会社の中で自分の居場所をどうやって作っていくのかということのほうが滅茶苦茶大変で、ものすごく苦労すると思うので、そこのサポートがおそらく必要だなと思います。
まず、うまく定着するためには、健康な人の中途採用と一緒で、「前の会社では…」と言わないことです。「前の会社の時はこうだった」と採用面接時に言うと、それなら「前の会社に戻れば」と言われてしまうので、そこは本当に基本的なところで、仕組みなどが変わっているのでしたら、年上だろうと年下だろうと「分からないから教えて」と、どんどん頼っていくのがベストですね。自分の居場所は自分で作っていくしかない。
 その中で体調が悪くなってしまったり、再発してしまうケースはありますが、その時はその時で、その人が悪いわけではまったくないので、仕事をしっかりやっていけばいいということでは、健康な人とあまり差はないという感じです。

和田 発達障害の方であれば、まさに自分の居場所を作ることがとても苦手な方が多いような気がしています。シングルフォーカスなど色々な特性がある中で、周りとうまくやっていくスキルが年齢のわりに育っていない人がとても多いと思っています。それならどうするかと言いますと、就職したあとにうまい具合に育ててもらえるようにやっていこうという準備を話し合いながら進めたり、就職したあとにうまくいかないことが起きた時に、支援者に相談してもらえれば、「なぜうまくいかないのか一緒に考えよう」と伝えています。 なぜうまくいかないかを考える時に、発達障害の特性について知識が少しあったり、対処方法についてアイデアを持っている人に相談してくれるとやりやすくなるのではないかと思っています。その時に「私たちを呼んでくれるとありがたいな」と言っています。

桜井 がんの場合はおそらくそこは患者会がやっていて、単純に愚痴をこぼすだけでもサポートになるし、アサーティブトレーニングではないのですが、伝え方や仕事の断わり方とか、SST(ソーシャルスキルトレーニング)があります。精神疾患の場合は、お金の勘定の仕方などSSTが非常に低いところになってしまいますが、もう少し仕事のレベルに応じたSSTプログラムが気軽に受けられると、そこで練習して、「よしっ、これでいってみよう」みたいになる。それで成功すればそれはまた自信になるでしょうし、失敗したらおっしゃるとおり修正して、もう一回やってみようと上書きしていけばいい話なので、トライアル&エラーで「上書きでいいんだよ」という一言を誰かが言ってくれるだけでいいのです。職場ではそういうことをなかなか言ってくれないので、そういうサポーターというのは、しばらくは必要なのかなと思います。

和田 私どもでやっているジョブコーチ支援は、そういうものを現場でやれるのが理想的だなと思っています。発達障害の方は応用したりするのが苦手なので、たとえば支援機関で練習して、それを職場で似たような場面でやりましょうと言ってもうまくやれなかったりすることもとても多いのです。職場でうまくいかなかったことが起きましたという時には、職場の端のスペースを借りて一回練習してみよう、来週も同じようなことが起きるかもしれないので、ここでやってみよう、と本人にやってもらう。障害者雇用の場合は、それを相手の職場の方にもお伝えできるのです。来週はあのシチュエーションで本人がこういうようにやってくるので、その時にこういうようにアドバイスをしてくれると安心すると思いますというやり取りを会社の方ともしておく。そうすると本人もこうやったらいいのだ、会社の人もこうすればうまくいくのだという、いい経験を共有することになり、うまく回りやすくなってくるので、そういうことができるといいなと思います。

桜井 いいですよね。会社も本人がそうして努力をしている姿を知るのはいいと思います。人を評価する時に、怠けようとしていると見てしまう人はいらっしゃるので、そうではなくて、本人も適応しようと思い、一生懸命にアダプテーションを頑張っているのだというプロセスが分かります。

五十嵐 オープンにするにしろ、クローズにするにしろ、自分のことをプレゼンテーションができることが、採用面接だけではなく、その先の仕事をする上でも重要で、自分のできること、できないことが分かっていると、そこに齟齬が生じにくくなってくるし、会社側としても、そんなはずではなかった、そんな話は聞いていないということもなくなる。

桜井 自分の見たくない部分なども見なければいけなくなって、見つめ直してそれを説明するナラティブなストーリーをいくつも作っておかないといけない。ジョブコーチなどが、しっかりサポートしていってくれるので、そういう人が必要なのだなと思います。自分1人で生きていたら、そういうアイデアをもらわないと分からないですよね。なぜ失敗してしまったのかを自分一人で考えていても答えは絶対に出てこない。多様性はそういう点でも非常に重要で、色々な人がいて、別な目線から見たら、そういうものの言い方は、相手からはこう聞こえてしまうのだというようなことを言ってくれると、「ああそうか」と気がつく。そうかパンチを繰り出していただけだったのだなと気がつけると、ひとつの自己成長にもつながると思います。そういう機会がなかなかないのですが、そういう「気づき」も本当は仕事の一部なので、「気づき」がないと営業でも事務の仕事でもできない、それこそ隣りの席の人とうまくいかなかったりすると思います。人と較べて得意ではないことがらや、得意ではないシーンの場合は、サポーターで誰かが入ってくれる。それはがんもそうですし、精神疾患もそうですし、ほかもみなそうで、普通の健康な人でもそうなると楽だと思います。そういう人は毎日ほしいぐらいです。

小島 ドラえもんのような存在ですよね。

桜井 本当にそうですよね。「これでやってみよう」みたいな感じで、それでやってみて失敗したら補正してくれますから。

彌冨 就労したあとの合理的配慮のためにも、コミュニケーションをうまくとっていかないとニーズが分からないし、コミュニケーションをうまくとれない人にとっては、ジョブコーチの方に関わっていただいたり、産業医が会社と本人との間でコミュニケーションがとれるよう働くのだなと考えています。

桜井 そういう存在であってほしいし、そう考えて味方につけたほうが絶対にいいと思うのですが、辞めさせようと思って言っていると思っている人が多いですよね。産業医は会社側の人と思っている人もいらっしゃるので、もったいないなと思います。

 

<合理的配慮のための対話は仕事の課題を整理する>

小島 彌冨先生から今出されました「合理的配慮」は、障害者雇用促進法で導入されましたが、これは手帳の有無に関係がないので、病気にも及ぶ普遍性があります。
「雇用主は、病気を持っているのなら知る必要がある。なぜなら自分たちには安全配慮義務があるからだ」という説明を時々見ます。ただ、安全配慮義務は、本当に知らないのでしたら義務違反にはなりません。兆候が分かった時にどう対処するかということなのです。ところが、安全配慮義務は、どちらかと言えば、危ないから仕事をさせないということになり、時には排除の論理になりかねません。
一方、合理的配慮というのは、仕事をするためにどうしたらいいか、その能力を発揮するためにネックになっているところを調整しようという話なので、非常に前向きで、仕事オリエンテッドで、仕事本位にディスカッションできることです。私はこういうことができます、そのために、ここを手伝っていただいたり、特別に認めてもらえるとありがたいですという、仕事として、何がしたいのか、何ができるのかという話と、すみませんここはできませんという話とをセットで常に考えます。これが、合理的配慮のための対話そのものだと思います。それを採用時に、まさにお見合いの中でやっていくことも、それもひとつの売り込みと言いますか、自分の能力をアピールすることでもあるし、それは常に仕事でやらなければいけないことだと桜井さんはおっしゃっているのだと思うのです。

和田 私は、腫瘍の治療後に復職された方の相談対応もしているのですが、その方はとてもクレバーな方なのです。話す機会さえ設定してくれれば、自分で誰かに説明することで、自分にとって今ストレスになっていることを話し、どうしようかというプランを考えられる。そういう意味では、聞いてくれるだけで助かっているという話を聞きます。支援のあり方は様々だと思うのですが、ニーズもそれぞれなので、それに対応できるスキルを、改めて私たちも持っていきたいと思いました。
がんの方も障害の方も、質が少し違うところがあっても、それを聞いて整理するというスタンスがとても大事なのだろうと思いますし、あなたの相談、あなたの困りごとを私はこういうように理解したけれどどうなのですか、という対話をしていくことが大事なのだということを本日は改めて思いました。

 

<インクルージョンと育つ環境>

桜井 先日、若いがんの患者さんのことを考える市民公開講座があって、ダイバーシティーのことをみんなで議論していたのですが、ダイバーシティーで終わっていて、インクルーシブにいっていない企業が多い。今はだんだんとインクルーシブという出口まで考え始めている企業が、少しずつですが増えてきていますが。社員が高齢化してきていますが、自分がこの会社にいることで、会社の多様性のひとつととらえられて、自分が能力を発揮できるような環境を会社が考えてくれることで、自分以外の同じようなことで困っている他の人も助かるかもしれない、というようなつもりでいると、楽なのかもしれないなと思っています。
それがその時のまとめだったのですが、多様性というのは非常に重要だよねというところで終わってしまったのですが、「ダイバーシティー&インクルージョン」※で、やはりインクルージョンがないとだめだと思っています。
一人ひとりが自分でそういう場所を作っていくことで、他の人たちの場所づくりにもつながっていくのだということも含めて、改めて働く権利とか意味を考えていかなければいけない時代になってきていると思っています。

和田 正社員枠とそうでない枠での雇用という話がありましたが、日本の働き方で、正社員に求められる働き方は、この仕事ができればいいというものではなくて、その会社にあるすべての仕事を、どこであってもそれなりにやれる人が正社員には求められているような気がしていて、そうなってくると私たちが支援している障害者の方は就職が厳しくなってしまうなというように思っています。
日本の進路指導と言いますか、キャリアについての指導のところで、この仕事はこういう中身なのですということを学生時代にはあまり学ぶ機会がないように思います。自分でうまく情報を集めてくることが苦手な発達障害の人たちが、就職の際に、その仕事に求められるものは何であるかが具体的にイメージできないまま就職活動をして、そこは選んではだめでしょうという仕事に就いてしまい、もしかしたらうまく仕事を選んでいれば障害が表面化せずにメンタル不調に陥らずに何とか適応できていたかもしれない人たちが私たちのところにたくさん来ているような気がしています。発達障害の特性がある人たちがうまく就職先を選べるような準備がもっと充実していくといいだろうなと思いますし、発達障害の特性がある人たちが社員として入ってきた時にうまく育てていける土壌が会社にあるといいなと思います。 時々、雇った社員が発達障害の特性があって、うまくいっていないのだけれどどうしようという相談を企業の方から受けることがあります。そういう企業の担当の方は障害のあるなしを明らかにしようということではなくて、部下におそらく発達障害の特性があるのだがどうしようかという前向きな相談をされることが多く、そういう方が多くなるともっと人材を活かせる社会になっていくのではないのかと思ってもいます。
※「ダイバーシティー&インクルージョン」とは、全ての従業員が、ありのままで組織に受け入れられていると感じられ、アイデアや経験をオープンにすることをためらわず、持てる力の100%を発揮し、相互に影響を与え合うことができる組織文化のこと。「インクルージョン」があって初めて「ダイバーシティー」は機能し、組織に“イノベーション”という成果をもたらす。

 

<人事をパワーアップさせる>

小島 コミュニケーションや業務指示の曖昧さがあり、仕事は何をすればいいのかが明確ではないというのは、上司が判断していない、決定していないのです。逃げているだけです。明確に指示をして失敗すると指示をした側の責任になってしまうことを心配する。そういう意味でのマネジメント能力がやはり全般的に低いのです。そこが外資系や外国人の働き方と比較すると、日本人はもう少し頑張らなければいけないところです。産業保健や障害者雇用は、実は、その人事をパワーアップする財産を持っています。

五十嵐 人事をパワーアップさせるというのが非常にいいなと思いました。しっかりと人事をパワーアップさせることで、トラブルの未然防止にもつながるし、win-winの関係を築けるということを、学会としても発信をするのが大事なのではないかと思います。
 本人のプレゼンテーションとか、「できる・できない」をはっきりさせるということもそうですが、同時に企業側、人事側もどういう仕事をやってもらいたいのか、どういう人材を求めるのかを明確にするなど、その中でジョブ型に移行する部分も含めてですが、人事をパワーアップさせることが、結果的にwin-winなっていくのではないかと思っています。

彌冨 採用される側として、とくに発達障害の方などは、どのくらい自分自身のことを知っているかが、雇用にしろ、その後の定着にしろ、大事なところだと思っています。

 

<まとめ-言う・言わないの議論を超えた本質を示すこと>

小島 結局、今日の話は、基本的な論点は、そもそも病歴や健康状態について採用選考の過程で質問していいですか、情報収集をしていいですか、また採用を申し込む側としては本当のことを言わなければいけないですか、そういう義務はあるのですかというようなことで、そこに色々な法的な考え方や立場があるというご紹介はしたのですが、おそらくそういう問題ではないのだということが、少しでも読む方に思ってもらえたらいいと思います。そうした議論自体が不毛な気がしますし、そこで議論しているのはどちらもまちがっていると言いますか、なぜ言わなかったのだと咎める人もどうかしているし、言ったら不採用にされて「ひどいじゃないか」と、言ったら不採用にされるので黙っているしかないだろうと開き直るのも、そういうことではないということです。
ただ、がんの当事者の方に個人的に相談されたことがあるのですが、入社する会社のことがよく分からない状態で、まだ働き始めてもいないのに、がんのことを言うのはどうかなと思い、「言うべきだ」とは、その時は言えませんでした。今すぐに手術を受けなければいけないというような事情があるのでなければ、とにかく頑張って実績を作って、信頼関係を作り、評価をされて、それから調子が悪くなったり、手術をしなければいけなくなったとしても、「ああそうか、しっかり治して戻ってきてくれ」となるのですから、まだ働く前から「実は…」と言うのは恐いなということはあります。したがって、一概に言わない人を責めにくいとは思います。
 できれば、そういうことを自然に交わし合って入社して始められると本当はいいし、労働者の方にはぜひそこまで、まさにプレゼンと言いますか、自分自身を説明する、という攻めの姿勢が大事だと思っています。それでも、失敗を繰り返しているとそういう気にならないというのも分かるのです。みんながみんなできるわけではないですし、メンタルのことばかりで話していると、どっちもどっちだと非難したくなってしまうのですが、今日は元気ながんの経験者と話すことできました。自力で強行突破して居場所を作っていくというたくましさを感じられました。がんサバイバーの人に来てもらって話をしてもらったらメンタルの人たちにはとても良いコーチになるのではないか、何が大事かと感じてもらえるのではないかなと、今日の桜井さんを見ていてそう思いました。

林田 そういうことを自分で分かっている方は、先ほどのプレゼン能力ではないですが、自分でそれを言えて、企業の方もああそういうことなのだなという対応につながると思うのですが、正直に言って、本人の自己理解まで落とし込めない方もいらっしゃるのです。そういう方はあまりうまく自分のことを説明できない、そのうまく説明できない中で企業側が採用をしてしまうと、うまくいかないことが起きてくるのです。

小島 どちらも不完全で足りない。そのような姿を見ると、やはりこちらもおかしな反応をしてしまうので、またその姿を向こうが見て、やはりそういうことかとネガティブな確信を深めるという、よくあるパターンです。

和田 できれば私たちが説明するのではなくて、本人が自ら言えるほうがいいと思っていて、本人が自ら説明してうまくできたという経験ができるように、後ろのほうから、それについてはこういう台詞(せりふ)で言ってみようと言い、本人がそれで説明してうまくいった、本人もよかったということで、願わくは企業の方も、今回は本人が説明してくれて、これからやっていけそうだなと思ってもらい、両方から歩み寄るような形で、われわれは障害者の方を後ろから押し出し、企業のほうも産業医のほうがこういうようにやればいいのだというように言ってくれて、ちょうどいいところで落としどころが見い出せるといいと思っています。

小島 それはまさに「二人羽織」をするということです。当事者同士は向かい合っているから、それが本当の相手の姿だと見える。相手がポジティブなフィードバックを返してくれると本人の認識も変わるのです。介入の仕方として、割って入っていくというやり方のほかに、片方の影で、他方に分からないように片方を導くというやり方で、両者の関係性を変えていく。

和田 われわれの姿が見えないでうまくいったという経験がされていくといいと思います。

 

以 上