第1回「不妊治療と仕事の両立支援」~イントロダクション~
第1回「不妊治療と仕事の両立支援」~イントロダクション~
鳥飼総合法律事務所 パートナー弁護士
小島健一
2022 年4月から保険適用がスタートしたことから、今後益々、治療に取り組む従業員が増加することが予想される不妊治療ですが、その実際について、よくご存じの方は決して多くはありません。働きながら不妊治療をしている女性のうち、その大多数が仕事と治療の両立は難しいと感じており、決して少なくはない女性が退職を余儀なくされているにもかかわらず、仕事との両立のための相談窓口、制度づくりや個別支援に取り組んでいる企業は、まだまだ、ごく一握りにとどまります。
不妊治療に取り組んでいる従業員本人のプライバシーや心情に十分に配慮しつつ、職場に、正確な情報とフェアな理解を拡げていくことが喫緊の課題です。同じ女性でも、子どもを簡単に授かった方、子どもを授かることができなかった方、そもそも子どもは要らないと思っている方など、経験や価値観は様々です。不妊治療がここまで一般化していなかった上の世代とは、認識や関心のギャップがあります。
厚生労働省は、2020 年 6 月から、事業主に対するマタハラ防止指針の中で、「不妊治療に対する否定的な言動」を行わないように求めるようになりました。同時期に出されたパワハラ指針でも、本人の了解を得ずに他の労働者に暴露するとパワハラ類型の1つ「個の侵害」に該当することになる「機微な個人情報」として、「性的指向・性自認や病歴」と並んで「不妊治療」を例示しています。不妊治療についての正しい情報の収集と社員への教育啓発は、すべての事業主の急務と言えるでしょう。
今後、「不妊治療と仕事の両立支援」は、女性活躍推進、働き方改革、ハラスメント防止、健康情報の適正取扱い、健康経営、ダイバーシティ&インクルージョンなど、人事労務と産業保健にまたがる複数の施策が真に奏功し、組織内外の連携が機能しているかを見極める試金石となるかもしれません。
まず今回は、医師、産業保健スタッフ、社会保険労務士が、それぞれの立場から、不妊治療と仕事の両立支援に関して、どのような立場や職種でも心得ておきたいことについて、多面的な解説を試みます。