杜若経営法律事務所弁護士 向井蘭様インタビュー
杜若経営法律事務所の向井蘭弁護士にインタビューを行いました
杜若経営法律事務所の向井蘭弁護士に、当学会の理事・広報委員である、小島 健一弁護士(鳥飼総合法律事務所・弁護士)と森本 英樹医師(森本産業医事務所、医師、社会保険労務士、公認心理師)がインタビューをしました(2021年8月4日)。
森本 よろしければ、小島先生から簡単に、今回の対談の趣旨のようなところからはじめていただけませんでしょうか。
小島 第1回学術大会を9月にやるではないですか。これまで(注:7月下旬現在)に参加を登録してくださっている方の半分ぐらいが産業医、医師なのです。残りが大方、保健師、看護師と社労士。これで8割以上を占めている感じです。残りが、心理職、弁護士、人事労務関係者などです。
向井 弁護士は少ないのですね。
小島 弁護士が、相変わらず少ないです。本当は、弁護士にこそ参加してほしいのですが。この学会が、弁護士にまだ知られてないということでしょうか?
向井 知られていないということはあります。
小島 究極的には、労働法学者や弁護士などの法曹関係者に半分ぐらいは参加してもらわないと、この学会の意味がないのではないかと思っているのですが。
向井 そのように思います。
小島 それは大きな、中長期的な目標ではあるけれども、その前に、クライアントである企業の人事の方や経営者にも参加してもらい、あまりプロばかりではなくて、むしろ当事者に、それこそ労働組合にも参加してもらいたいと思っています。
向井 労働組合にも、本当は参加してほしいですね。
小島 労働組合こそ、産業保健にしっかり関与すれば、存在意義が出てくると思います。
向井 そうですね。大手企業の労組などは、メンタルヘルスでほとんど影が薄いです。
小島 そうですね。あれはなぜなのか、そこが実はいちばん気になってます。労働組合ならば、秘密を守ってもらいながら、相談ができます。
向井 仕事の内容をよく知っています。
小島 僕は、労働組合が顧問医などと契約をして、産業医的なアドバイスを受けるような形が良いのではないかと思っています。
向井 そうですね。おっしゃるとおりです。労働組合にしか相談したくない話などを相談できればいいですね。
小島 業界といいますか、業種によっても、かなりニーズが違うようです。安全のほうはしっかりやるところでも、メンタルヘルスに対してのニーズがとても切実なところと、あまり問題を感じていないところがあります。
向井 そうですね。同じ製造業でも違います。ものづくりよりITに力を入れているところと、ものづくりが主力のところでは、同じ安全でも違います。
小島 あとは、産業医さんもおられるけれども、多くの産業医の先生は専業ではなく、病院やクリニックの勤務が主体ですから、健診結果の確認と不調者の医療機関への紹介が主な業務となったりしていて、労働安全衛生法の指導やメンタルヘルス対策の指導まではしてくれていないことが多いです。そのようなことから、人事や労働組合など、より当事者に近い人たちにより役に立つような学会といいますか、ぜひ、現場のニーズや現実をインプットしてもらい、フィードバックを受けてもらいたいと思うわけです。学者のための学会にはしたくないです。かといって、ただ現場の人が集まって、「困ったね」と言っているだけでもしょうがないので、それを学者に理論や研究などにどんどん反映してもらって、それをまた、現場の人も学んだり使えたりというような交流をしたいと思っています。
さらに、僕自身の期待としては、一言で言えば、弁護士に、予防法務(※)の仕事をもっとやってもらいたいのです。労働法に関わる弁護士、ずっと専門でやっている先生もおられるけれども、若い人たちも、だいぶ、労働法にかかわるようになりました。
※小島注:「予防法務」とは、一般的に、訴訟等の法的紛争や不祥事等の法的トラブルが発生してしまってから対処するのではなく、それらを未然に防ぐための諸施策を講じることです。人事労務ないし産業保健に関する領域であれば、法令に適合し、労使が納得できる契約やルール、システムを整備して、それらを公正・的確に運用していくことの支援から始まり、従業員の入退社や異動を適切に運用し、勤務状態や職場環境の健全さを確保することの支援、更には、従業員一人ひとりの多様性を尊重して権利の実現を保障しながら、同時に、組織の秩序を維持して生産性を向上させるための労使間の調整・対話を支援することまでをカバーすると言えるでしょう。
向井 そうですね。若い先生は、本当に、労働法に取り組む人が増えました。60期代以降(※)は、昔と全然違います。
※小島注: 「期」とは、司法試験合格後、法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)になる前に研修を受けるために最高裁判所司法研修所に入所して司法修習生になった時期のことを意味します。60期は、2006年に司法研修所に入所した期であり、この期から、法科大学院を経た新司法試験の合格者が司法修習生になりました。新司法試験は、それまでの理論重視から実務重視へと大きく変わり、合格者数が激増し、司法修習期間も1年間へと短縮されました。
小島 そのような人たちが、ただ裁判で闘ってお金を得るのではなくて、日常的に企業の顧問として活動する、あるいはスポットで難しい事案にタイム・チャージでしっかりお金をいただいて仕事をして欲しいのです。僕自身が外資系のクライアントを中心にやってきて、手応えがあります。裁判とはまた違う、サービスといいますか、解決を提供できる、その予防法務的なことを、きちんと弁護士の仕事として確立したいのです。それに関わる弁護士を増やして、企業もきちんとそこにタイム・チャージでお金を払って、紛争を劇化させないところで解決するために、弁護士に継続的に関与してもらうという習慣をしっかり確立したいということが、僕の思いです。弁護士がこの学会に参加して、いろいろな他の職種や立場の方にさらに幅広く参加してもらえば、そのような弁護士のためのプラットフォームになります。産業医や心理士さんなどとどこでつながればいいかというと、産業医も心理職も皆、それぞれの大きな職種の中では、産業領域に本格的に携わっている人は、これまた、ごく一部です。だから、ただ産業医や心理士さんと組めばいいというものではなくて、同じ働く場において、それぞれの専門性でなんとかしなければとやっている人たちと結び付いてということでないと、なかなか進みません。この学会が、せっかくそのような場になりつつあるので、その魅力を弁護士さんたちにも伝えたいと思っています。
向井 はい、分かりました。
小島 僕のこの学会に対する思いや期待は、そのようなところです。片や、半分足を突っ込みつつある向井先生から見て、いかがですか。
向井 僕も今回の学術大会のシンポジウムを司会役で一つやらせていただきます。日常では会社側で労務問題の対応をしています。その中でメンタルヘルスが関わる事例も関与しますが、僕も、周りの弁護士も、ほとんど精神疾患のことを分かっていません。複雑で勉強しても仕方ないという諦めムードが、どこかにあります。
一方で、このようなタイプの人は今までいなかった、というような人が増えてきているように思います。うつ病でもないし、何だろうというような人も増えているのです。業務で病名が付く案件を取り扱う機会は結構、労働法をやっていると出てきますが、病名・病気について理解ができていないです。弁護士は、知識も欠けているし、理解していないし、理解しようともしていない感じではあります。それはなんとかしなければいけないだろうと思ってはいます。僕もそれほどやっていないので偉そうなことは言えませんが、そのように思います。
小島 それは、どのような人が増えているのですか。
向井 いわゆる発達障害かもしれないという方の事案です。そのような方の事案は、とても難しいです。精神疾患などの病気なのか、反抗的な問題社員なのか、よく分からないです。分からないのならまだいいのですが、分かっていないことも分かっていないという状態は良くないと思います。
小島 そのような方は、診断を受けていないのでしょう?
向井 診断は受けていません。ご自身も、そのような病識がないといいますか、そのような事案が結構多いです。結局辞めてしまうので、うやむやになってしまいますが、いずれ大爆発したらどうするのだろうと思います。
小島 やはりそれは、見ていて、発達障害のようだと分かるのでしょうか?
向井 それらしいとは言えますが、本当にそれかは分かりません。
小島 でも、辞めてくれますか。
向井 お金を払ったりして、辞めている事例が多いです。長続きはしていないか、あとは、お客さんである会社が諦めてしまいます。
小島 もう、抱え込むしかないということですか?
向井 抱え込むしかないです。
森本 本人は「辞めたくない」と言って、会社が「もうこの人を解雇するのは無理だ」ということですか。
向井 「無理だ」ということです。以前は諦めないお客さんが多かったのですが、今は諦めるケースもあります。
森本 それはもちろん、弁護士さんの立場から見て、懲戒することを含めて、退職勧奨できるほどの状態にはない感じですか。
向井 解雇まではとても無理で、懲戒といっても難しいのではないか、という程度の感じです。
森本 休むといっても、休職期間満了にも至らない状態ですか。
向井 至らないし、本人も病気だと思っていない、ということはあります。
森本 裁判外で、裁判に行き着く前のパターンで、向井先生のところに色々な相談があるという話だと思います。今の小島先生の話は、いわゆる予防法務の枠組みに入りますか。
向井 そうですね。僕たちも陰でしか関わっていないので、ほとんど紛争までは行っていない事案です。
森本 そのようなケースの場合で、向井先生のところに来る相談は、ニーズとしてはどのようなものが多いですか。先ほど言った、「どれにも至らないけれども、会社としては困っている」というような事案ですか。
向井 そうですね。ご本人も悪意があってやっているのではないだろうけれども、うまく周りとなじめないという方です。また、知能は高いけれども、仕事が全くできない、人から具体的に事細かく指示されるような作業はできるけれども、マネジメントであるとか人と関わる仕事になるとパフォーマンスが発揮できないというような方は難しいです。
小島 それがハラスメントと絡んだりすることは、少なくないと思いますが。
向井 あります。上司ご本人はパワハラには全く身に覚えがないと思っているので、パワハラを受ける確率は、一般の方より高いのではないでしょうか。
森本 求められるレベルまで仕事ができないから、指導する側が期待のあまり強い指導をしてしまうというパターンでしょうか。
向井 そうです。
小島 逆のパターンもありますよね。典型的なのが、どちらかというと自閉スペクトラムのアスペルガー寄りの上司で、とても仕事はできるし、完璧主義できちんとやるけれども、部下を詰めるといいますか、理詰めでどんどん質問して、部下がきちんと仕事ができていないことを、徹底して認めさせようとします。
向井 そうですね。行動としてはパワハラという名前になってはいますが、実際は障害かもしれません。
小島 労働側の先生が、お金を個人から取って、予防法務的な関わりの仕事をすることは、今はまだ難しいのではないかと思います。
向井 難しいです。会社側でないと、無理でしょう。
小島 だとすると、やはり予防法務という領域は、仕事としてもやる機会があるし、仕事に生かされるという意味で、まずは会社側の人たちが中心になるのではないか、とは思います。
森本 私は判例などを読む産業医なのですが、判例を読んでいると、結構、詰将棋的だと感じます。こちらがこの手を打って、向こうはこちらを打って、最後に王手、というような話になるではないですか。
向井先生に伺いたいことが、「既に王手です」「チェックメイトです」とすでになっている時に相談をもらっても、「相手方の王手がかかっています。今さら言われてもお手上げです。」としか言えないこともあろうかと思います。
向井 あります。
森本 多分、もう何手か前、もう少し形勢が決まってしまう前の状況から相談をもらっていれば、随分打てる手がたくさんあったはずなのに、というようなことがあると思います。今、向井先生のところに相談を寄せられるものは、「もう少し早く相談をもらえたらいいのに」あるいは「結構良いタイミングです」、など、その辺りの相談のタイミングについて教えてもらえますでしょうか。
向井 昔よりは、中小企業はもちろん、大企業も、事が起きる前には相談してもらっているほうだと思います。前は、解雇して、内容証明郵便が来てから相談に来ることがほとんどでしたが、今は、「この人、ちょっとおかしいな」と思ったら、相手に弁護士さんが付いていなくても、相談してくれるようになりました。お客さんの意識が変わりました。
森本 企業の意識が変わったのはなぜなのですか。
向井 社会環境の変化だと思います。べつに僕のことを知っている人とは限らないので、誰か弁護士さんはいないか、というような問いかけを、顧問社労士さんや知り合いの社長さんに相談して、紹介を受けることが多いです。予防に時間をかけてくれる時代になりました。
森本 では、労働問題も裁判ではなく予防法務的なものにだんだん変わってきているということでしょうか。
向井 はい。メンタル以外も増えました。今やっているのは、がんと、心臓の病気の人などもいます。
森本 心臓の病気は、労災申請がかかわるような長時間労働とかと関係ない、私病ということでしょうか。
向井 私病です。
小島 病気絡みのときに、産業医さんは関わったりしていますか。
向井 50人未満だといないことが多いので関われませんが、たまに50人未満でも産業医がいるときもあります。とはいえ、産業医でも「面倒なことはやめてくれ」というような先生もいて、「安い委託料金でやってるし、契約の範囲外だから、こういうことまで対応できない」と言う人もいます。だから、ある程度、従業員数が多くて、それなりにきちんとお金も、いつものコミュニケーションも取れている産業医の先生でないと、面倒なことはやってくれないこともあります。
小島 では、面談や、さらには主治医とのやり取りなどはやってくれない感じですか。
向井 実は、やってくれない人もいます。
小島 そのようなときは、どうするのですか。
向井 無理強いしてもしょうがないので、せめて専門医だけでも紹介してくれと言うしかないです。気持ちは分からなくはないです。元々そのような関係でしかないので、「裁判に引っ張られるのは嫌だ」と、はっきり言われます。
小島 逆に、森本先生のように、アクティブにやっている産業医と一緒に仕事をしたりすることはありますか。
向井 大企業には、います。大企業には、非常にアクティブな先生も増えました。
小島 依頼者と一緒に打ち合わせをしたりしますか。
向井 打ち合わせまでは、ないです。そこまでは、ないです。
小島 先ほどのような、よく分からない、「発達障害かもしれないな」という労働者を相手にするときに、連携を組むと、とても良いです。
向井 そのような適格な先生が産業医を務めていれば、いいです。でも、少ないかもしれません。それはやはり大企業に限るという感じでしょうか。そのような気がします。
小島 大企業で産業医さんがしっかりやっていると、その中で、要は、産業医が本人と面談し、主治医とやり取りしということで、基本的には完結して終わるケースが多いと思います。うまくできるので、先生のところまで持ってこなければいけないほどのこじれにはならないのかもしれない。
向井 そうですね。機能していないから、弁護士に相談しないといけなくなってしまっている、ということはあります。
小島 僕のケースでは、中には強者がいて、産業医さんがよく関わって、うまくできているけれども、ある労働者の時だけはうまくできないことがあります。そうすると、産業医と私の両方でスーパーバイズするといいますか、人事・総務などが相手とやり取りをしているのを、両方でコンサルするといいますか、そのようなケースはあります。
向井 よほどのケースですね。
小島 そうです。でも、結構います。もちろん、中小企業だったら、もう解雇してしまうと思います。だけれども、大企業は、普通、解雇はしません。先ほどのように、ベースにそのようなことがあるので、特に、いわゆる事例性といいますか、仕事がきちんとできなかったり、会社ともめたり、そちらのほうに出ていて、もちろんメンタルの不調にもなっているけれども、それは一応、休職すると、概ね、すぐ、「治りました」と言って、来てしまいます。
向井 そのような人の案件は、何年かに1回あります。
小島 裁判になってからが、難しすぎます。
向井 難しいです。会社側ももう感情的になってしまって、辞めさせることから逆算していろいろやっていると裏目に出ます。どちらが正しい正しくないというような感じでやっていたので、これはどうかと思いました。ドクターもいろいろ登場しますし、病名が、人によって、ばらばらになることもあります。
小島 そうですか
向井 うまくやれる人がいれば、止められることもあるのです。場外乱闘のようなことに発展してしまって、肝心の仕事が、おざなりといいますか、全然、空中戦になってしまって、この人は病気だ、病気ではない、などという話になってしまいました。仕事がどの程度できたかという、基本的なところが抜けている感じがしていて、それがやはり、問題が飛び火した原因ではないかと思っています。
小島 僕もよく、場外乱闘に引っ張り込まれないで、リングに戻して戦うようにと言うけれども、まさに向井先生のおっしゃるとおり、仕事をきちんとやらせていかなければだめです。
向井 やはり企業も好きや嫌いで判断が左右されることがあって、それは少し残念です。結構多いです。社長に直筆文で直訴状のようなものを書いたり、ネットに会社の悪口を書いただけで、もう精神疾患扱いのような形もあります。でも、仕事ができているかということを本当にきちんと見ているのかというところは、判決文からも読めないことがあります。
小島 向井先生の日報のフォームを、実は私も使わせていただいています。向井先生がセミナーで教えてくださった日報は、とても良いです。シンプルだけれども、何時から何時まで何をやって、その1日分を、毎日終わるときに出させるのです。良いなと思うところが、予定時間と実際にかかった時間を入れて、それによって、仕事の段取り力といいますか、所要時間を予想して計画をし、それでやってみて実際にはどうであったかということをきちんと見つめさせる効果もあります。本人の自由記述的なコメント欄があって、上司がフィードバックする欄もあったりするでしょう。あれが、過不足なく、ちょうどいいのです。
向井 ありがとうございます。メンタル事案は、結構、会話が欠けているのです。いがみ合っている事案は特に、仕事からかけ離れて空中戦をやっているから、暴言を吐いた/吐いていない、病気ではないか/この診断名がこの先生ではつくなど。そうではなくて、日常の仕事で求められたものをどの程度できるかということを見ないといけないのに、そちらに走っているので。
小島 先ほどの発達障害の特性は、仕事や業務と、病気といいますか、障害が重なり合ってしまっているではないですか。だから難しいのです。
向井 人との折衝などが難しいことがあるので、そうですね。いずれにしても、この人は何がどこまでできるかというような、基本的なところが少し足りているのかな、ということはあります。
小島 結構、40代、50代、年配の方にもいたりしますよね。自閉スペクトラムやADHDもそうだけれども、基本的に、女性のほうが少ないです。ただそれは、絶対数が少ないのではなくて、女性のほうが、育ってくるときに、コミュニケーションや、きちんと何かをやるということを躾けられるといいますか、周りからの圧力もあるので、それなりに適応して、分からなくなっているケースが多いです。けれども、非常に重い人はそこに入れないので、女性として発達障害だとはっきり分かるような人は、男性に比べて重いことが多いです。だから、目立つといいますか。そのように言われています。
向井 士業、もしくは士業団体も、全然、人のことを言えません。
小島 この学会に入ると、そのような意味でも、いいのではないですか。
向井 そうですね。
森本 若手の弁護士さんが早めに独立して、OJTなどの機会が少なくなっているのであれば、そのようなことが一部、機能すればいいですね。
向井 機能して、関心を持ってもらうといいですね。
森本 向井先生にご質問ですが、若手の弁護士の先生から向井先生へは労働問題でどのようなことを学びたい、労働問題関連の質問が来るなどありますか。
向井 若手の先生からは、やはり事件処理の質問が来ます。メンタルの質問は、それほど来ません。
森本 やはり、事件化したときの対応ですか。
向井 そうです。メンタルヘルス疾患が背景にある労働の相談は、社労士の先生からが多いです。ただ結局、これも病気が分からないので、お互い、病気以外の質問です。
森本 それは、やはりそうでしょうね。やはり、弁護士の先生からすると、まず事件のときの対応力、こちらのほうが、いわゆる基礎力といいますか、どのようなときでも必要な能力としてあって、そこがきちんとできてくると、今度は応用として予防法務をやっていきたいと考えるなど考え方が変わってくるのですか。
向井 予防法務は、修習生がよく言いますが、やっているほうは解決することで精いっぱいで、そこまでの意識は、うちの事務所は、ないです。
小島 でも、向井先生の事務所は、社労士さんの顧問先が多いでしょう?
向井 社労士さんが多いです。
小島 そうしたら、社労士さんがクライアント先で対応していて困っていて、結構、早い段階の相談が来るでしょう?
向井 早い段階の相談が来ます。社労士の先生は、やはり弁護士よりお客さんとの距離が近いから、相当、早期のトラブルは察知しています。あれはやはり、弁護士はできていません。「この段階で相談を受けてるんだ」という点はすごいと思います。予防法務という意味では、社労士の先生のほうが、圧倒的に情報が近いし、早いです。社労士の先生も、予防法務という観点でやっていると、火をぼやで消しながら歩いているような感じではないでしょうか。
小島 僕も、まさに、ぼやになっているところに突っ込んで行って、消防車まで出動させないで、なんとか火を消すことが、予防法務だと思っています。
向井 そうですね。やはり、社労士の先生のほうが多いです。ぼやの少し前のようなものが多いです。
小島 向井先生を知っている、顧問になってもらっている社労士さんはいいけれども、社労士さんだけでやっていると、危ういというところがありますか?
向井 これは弁護士も同じですが、危うい先生と、きちんと知っている先生とで、差が激しいです。社労士の先生だからメンタルヘルスの対応に皆さん詳しいかというと、全然そのようなことはないです。なまじ労務を知っているだけに、あまり勉強や調べたりしない人と、最新のことまで詳しく知っている人で、相当、差があります。
小島 どれだけ勉強しているかという違いでしょうか。
向井 勉強もあります。あとは経験です。
小島 もう少し具体的に言うと、そこの差は何ですか。同じように、ある程度は労働法や人事労務を知っているわけではないですか。一応、判例などの情報もそれなりには知識があるわけです。ところが、関わるときに、スタンスが違うのでしょうか。
向井 本当に深刻になったときの怖さが分かっている先生と、分かっていない先生の差でしょうか。何が違うのでしょうか。僕も、うまく説明できません。でも、やはり、軽く考えている人が多いです。突然、休職期間満了、自然退職扱い通知を出す先生など、怖さが分からないのではないでしょうか。
森本 私も社労士ですが、社労士試験のいわゆる法律の試験問題の範囲の中に、民法がないですよね。私は社労士としての経験があるわけでもないですし、知識としても十分ではない。ですので、社労士の立場でのお仕事は難しいという面があります。
向井 そのようなことはないと思いますが、個人差は激しいです。
小島 森本先生が、民法とおっしゃるのは、多分、利益衡量のことだと思います。僕も法律を勉強したときに、最初は、憲法や刑法などの公法が好きでした。やはり、すぱっと切れる刀だし、権力と国民という対立構造が明確です。ところが、民法や商法は、パワーバランスもいろいろだし、事情もいろいろで、どちらが悪いではないけれども、どこで線を引けばいいか、どのようにプロセスをするとフェアか、落ち着きのいい結論になるかというようなところで、双方の利害得失をしっかり抽出して、それを机の上に並べて、場合分けしたり、整理していくようなことが、民法の神髄ではないですか。あまりそのようなことをやっていないと、どうしても教条主義的になってしまうといいますか、空中戦の頭の発想になってしまうのではないかと思います。
向井 そうですね。労働法の条文は少ないですからね。
小島 でも、判例を読み込んでいると、実は、具体的な事情の違いや、その事件の筋のようなものを読み取らないとだめではないですか。法律家がついふっ飛ばしそうな、弁護士であっても空中戦になりがちなところを、向井先生は、地に足をつけて、素朴な疑問や感じる違和感のようなものは何だろうとしっかり考えて、それを言語化したり、思い切って警鐘を鳴らしたりして、すごいと思います。
向井 ありがとうございます。でも、確かにおっしゃるとおり、労働法はそのようなところが難しいです。すぱっと割りきれないです。
小島 実は、産業保健法学会も、まずは、法律を知りたいといいますか、知らないと怖いということは、産業保健に従事する皆さんが強く感じているので、入会してくださっています。やはり、分からないと怖いのです。人事の方々が分かっているかといえば、必ずしも分かっていません。
向井 そうではないですね。
小島 さらに、顧問弁護士が分かっているかといえば、また多くの顧問弁護士は労働法のことはよく分からないということで、結局、会社はどうしたらいいかということにもなっています。自分はどうしたらいいのか、皆さん非常に不安を抱えているので、きちんと法を勉強しなければということで、産業医さんも相当、法律を勉強していらっしゃいます。
向井 産業医の先生は、熱心です。
小島 保健師さん、看護師さんも、かなり熱心です。
向井 これほど参加するのですから、そうでしょう。
小島 ところが、皆さん、やはり、法のイメージは、刑法なのです。あるいは、労働安全衛生法は、まず皆さんが勉強しますが、それは、基本的に、規制法ではないですか。
向井 規制法ですね。刑法のイメージだと、労働法は難しいです。全然違います。
小島 だから、やってはいけないことなのではないかと心配になる。常に、法律については、何か違反したり、違法なことをやってしまったりはしないかという恐怖感の中に、皆さんいらっしゃいます。実は、グレーであり、クリアカットではなくて、塩梅のようなものがある。まさに、解雇の有効性や退職の有効性、不法行為の成立などが分からないので、知りたいのです。
向井 極端なことを言う先生も出てきて、「それは無理じゃないですか」という話になることがあります。メンタルヘルスも同じで、僕は小島先生に伺いたいのですが、最近、中小企業の就業規則でのはやりが、休職期間1カ月というものがあります。1カ月ではちょっとした交通事故でも戻れないのに、1カ月で解雇通知を出そうとする事案が結構あって、「ちょっと待って」と僕が言うと、「休職規定に書いているのに、なぜだめなんですか」と言われてしまう。なぜだめかというと、それは解雇だから、社会通念での合理性などを求められるのであって、就業規則にたとえ1カ月の休職期間満了で解雇できると書いてあっても、この病気ですぐに解雇するのは無理です、ということが分からないのです。この辺りはまだまだ、判例も意外とありません。小島先生、1カ月の休職期間と書いたら何でも通るということは、あり得ないですよね。
小島 あり得ないです。1カ月もあればいいではないかという考えの立場から論拠を出そうとすると、休職制度がそもそも法律上必須のものではないから、「なくてもいいから」と言うわけです。だけれども、休職制度がないのであれば、病気になったらすぐに解雇して、その解雇は有効かといったら、もう明らかに解雇権濫用法理で無効になるわけだから、それで1カ月待てばいいことに、簡単になるわけがないでしょうと。
向井 なるわけがありません。なるわけがないけれども、そこから説明して納得してもらわないといけなくて、お客さんにもそれで通してしまっているから、「1カ月たてば、クビにできます」と。「いや、ちょっと待ってください。それは、いくらなんでも無理です」と。まだまだそのようなことが多いのです。
小島 社労士さんは、就業規則を直しましょうということが一つの収入源でもあるので、「直さないといけないです」と言うわけですが、そこでさらに、「直せば大丈夫です」と言ってしまい、今度は、就業規則に書くことで全て解決されるように思わせてしまうところもある。
向井 僕は、やはり疑問ですから、まだ裁判例はありませんが、就業規則についてもこの学会で議論してもいいと思います。
森本 他の話題ですが、私の立場から見ていても、結構、企業法務は、人事の方や他の部署からすると、とても敷居が高い感じがして、私が関わるような案件でも、「そろそろこれは法務経由で弁護士さんに相談しておいたほうがいいよ」と言っても、人事の方は「それはちょっと」というような形で、連携せずに自分たちで頑張ってしまうこともよくあるように思います。その辺りの連携が有機的にできるともう少し違うのではないかと。
向井 どうなのでしょう。会社によりますね。企業と社労士の先生と弁護士のつなぎは、永遠の課題といいますか、難しいです。
森本 早くから相談がくるときもあれば、もう少し早くても良い場合もある。
向井 ユニオン、弁護士さんが出てくれば弁護士につなぐことが大体決まっている感じですが、それ以前だと、なかなかタイミングが難しいです。なぜでしょうか、小島先生。
小島 僕が思うに、人事部が弁護士と直接つながっていて、予算的な意味でもかなり裁量を持って相談できれば早いけれども、法務部が関与しないと弁護士に頼めない会社が、結構大きい会社で、あります。
向井 予算は法務部が握っているということがありますね。
小島 日常的に、知的財産や、いわゆる企業法務を得意とする法律事務所とはつながっているけれども、元々、人事労務が得意な弁護士とつながっていなかったり、ということもあります。人事部がそこで裁量を持って弁護士を自由に選べる会社だと、相談は早いです。
向井 それはありますね。法務部とやり取りをしていると、いつもお金の話が出てきます。人事部の人は早めに話をしてくれますが、法務部の人が途中で出てくると、確かに、タイム・チャージを気にするばかりで、内容は気にしない感じです。
小島 だから、実は、人事と法務の連携も、なんとかしたいと思っています。
向井 企業内弁護士の方が増えてきましたが、人事にはまだそれほど関与しません。やはり、皆さん、契約書などに関与しているようです。本当は人事にも関与してほしいのですが、社内弁護士が人事部にもいていいと思いますが、あまりいません。総務部にいても、企業内弁護士は株主総会などを主に担当しているようで、人事労務業務は担当していません。
森本 なぜでしょうか。社内にいて、労働問題にどんどん関わってくれる形でもいいと思うし、社内にいないのであれば、社外の人ときちんと連携して、何かあってもきちんと社外の専門家にパスを出せたらいいと思いますが。今、話を聞いていると、機能が難しいといいますか、まだ不十分な感じがするので、なぜかと思います。
向井 なぜでしょうか。企業内弁護士の方は、人事、ユニオンなどの労働問題をやりたがらないです。なぜかは分かりません。
小島 僕が思うに、人事や労働法の世界は、法律だけでは、万能に、きれいに答えを出せないでしょう?
向井 全然だめです。出せないです。
小島 法務部や弁護士が、自分だけで解決を提供するということが難しいのです。分からないし、関わっても、いつものように、すぱっと、「それは違法です」「これはできます」とはできません。
向井 確かに、それでうまくいかなければ、企業内弁護士としてよろしくないと思うのかもしれません。企業内弁護士の数は右肩上がりですが、企業内弁護士が関わる人事労務の仕事は本当に少ないです。とても不思議です。
森本 産業医とも似ている気がします。お医者さんは、例えば外科なり何なりであれば、「私が手術で切って治しました」という世界が多いではないですか。一方で、産業医の世界は、産業医が面談したから、すぱっと解決する、病気が治るものでもないので、混とんとして分かりにくい。けれども、産業医はその中で人がうまく組織で働けるようになることを願って行動する。その点が私は魅力だと思っています。弁護士の先生が労働問題にかかわる時も、そのようなところがありますか。
向井 あります。とても似ています。
小島 似ています。悩みどころです。
向井 本当は、法務部の人も、この学会に参加していただくといいですね。
小島 そうですね。
向井 認知度を上げれば、大企業は、予算が付けば、簡単です。それをどのようにやるかです。予算が付けば、何ということはないと思います。
小島 この間、この学会の理事で鼎談をしたのですが、そこで、大手企業の産業保健をずっとやっていらっしゃる保健師の方が話してくれたことですが、最近では、人事部と法務部と産業保健スタッフは早々に連携を組んで、チームで対応する事案がとても増えているそうです。産業医とも連携しなくはありませんが、産業医は常勤でないとしても、産業看護師や保健師が常勤なので、そこがハブになるとおっしゃっていました。結局、産業医と法務と人事と、さらに、事業部門の上司、これらを全部連携させていかなければいけないし、チームとして対処しなければいけないので、それを産業看護師や保健師がコーディネートするのです。あるいは、最初の端緒をつかむことも産業看護師・保健師が多いので、それは単なるメンタル不調者だけではなくて、ハラスメントをされていることや、ハラスメントのことや、難しい問題が起きていることを、そこで結構拾ったり、そこから社内につないで、チームにしていくという。この連携について、「やっとできてきました。すごくうれしい」とおっしゃっていました。
森本 産業看護師や保健師は本当に産業医以上に現場に近いので、そこで情報を拾い上げてくれるか、ファーストで動いてくれるかによって、会社の動きであったり、産業医のクオリティーが全然違ってきます。
向井 そうですね。大企業はいいのです。
小島 そうですね。中小企業で保健師さんが関わっているところも、なくはないです。週に1回ぐらい来ていたり、社労士さん的な関わりをしている、フリーの保健師さんたちもいますので。
森本 最近、独立開業する保健師さんも増えてきています。
小島 結構、この学会には、そのような人たちが参加してくれています。
向井 意識が高い方ですね。
小島 すごいです。保健師さんが、組織開発などを勉強していますから。とても意欲的です。カウンセリングやコーチング、組織開発のファシリテーション、ワークショップの運営などもやってしまいますので。
森本 いかがですか。そろそろまとめに入る頃かと思いますが、小島先生、まず感想的なところをお願いします。
小島 まず、向井先生には、ニーズなどが多分見えているのだろうと思います。
向井 潜在ニーズは高いです。
小島 今日出た話も、例えば、法務と人事がもっとつながって連携できたらいいですねという話もあるし、社労士と弁護士がもっと連携できたらいいという話もあるし、産業医さんももちろんそうです。極端に怖がっているのではなくて、会社の弁護士ともっと連携してやってほしいです。
向井 両極端ですからね。
小島 この辺りをつないでいくために、欠けていたり、乗り越えるものとして、何がありますかね。
向井 連携は欠けています。いざ問題が起きてから、あたふたとやり始める感じです。何が欠けているのでしょうか。産業医の選任義務に、事業所の労働者数50人という区切りが困ります。意義の分からない区切りです。
小島 50人未満のところは、保健師と契約したらいいのです。
向井 したらいいと思いますが、そのような発想がないので、保健師と契約しなさいと、法律改正をしてくれるといいのですが。
小島 それが、僕の持論です。
向井 社長さんに言ってくれるので、そうすると、大きく変わります。保健師さんであれば、定期的に話をして、いろいろな情報を集めてアドバイスしてくれそうなので、法改正をしてもらうことが、はっきり言って、一番早いです。そうしたら、劇的に変わるでしょう。
国は、がんなどの疾病と、70歳まで働くことを両立させようとしているので、企業規模にかかわらず、保健師義務化、産業医義務化は十分あることだと思います。そのためにも、実績といいますか、各団体の人が集まって、勉強、研修しているという実績をこの学会で作れるといいですね。
小島 これはニワトリとタマゴで、それだけの保健師さんと看護師さんで全国の中小企業の数に応えられるだけの人がいるかという話もあって、常にその悩みです。
向井 そうですね。難しいですね。
小島 多分、義務化には、ある程度の時間が必要で、まさに実績ができてからにならざるを得ないと思いますが、義務ではない段階で、あえてやってみようという感じで進めばいいのですが。
向井 社労士と保健師さんとが連携したりできるといいのですが、あまりそのような発想はない感じがします。
小島 両立支援に取り組んでいる社労士さんは、意識が高いです。保健師さんと組んで、企業の支援をしている社労士さんは、おられます。ほんの少しでもやってみれば、やれると分かりますし、会社に必要とされるのですけれども。
向井 増えると思います。70歳雇用が現実味を帯びているので、そうすると、病気と就労を両立させるという話になるので、重要だと思いますがどうでしょうか。
小島 70歳雇用は、大きな視点です。企業は、生活習慣病とつき合わなければ、向かい合わなければいけなくなりますので。
向井 だから、保健師さんは、50人未満でも要ると思います。
小島 そこにかなり関心を持っている方が増えている実感はあります。ただ、そのど真ん中にいるから、そのように感じるのであって。
向井 一般的には、まだです。
小島 まだまだですね。同じことが、心理士さんにも言えます。森本先生は公認心理師でもありますよね。心理士さんの世界でも、産業という、要は、学校でもないし、病院でもないし、EAPという形で個人を相手にカウンセリングをすることはあるけれども、企業に直接コンサルする、もしくは職場に入って何かをするところまでやっている人は、とても少ないです。
森本 非常に少ないです。心理の世界でも産業保健にかかわっている人はごく一部ですし、医者の世界でも産業医を本格的にやっている人はごく一部です。看護職でも産業保健にかかわる人はごく一部。けれどもニーズはある世界だと思います。
小島 需要は山のようにあるけれども、それを解決できる人がいることが知られていないのです。
森本 私も常々言っていることは、まだブルーオーシャンなので、人が入ってきたらパイが少なくなるというのではなくて、きちんとできる人がきちんと入ってくれば、どんどんパイは大きくなっていって、このようなことまでできるのだ、という世界がまだたくさんあるような気がします。ただ、まだそこまで思いが至っている人が少ないといいますか。
小島 この学会が、そのような場になっていくようにしたいのです。インフォメーションとしてお話しすると、この学会の研修委員会では、来年から本格的に始める研修の準備を進めています。労働法と産業保健の法を、基礎からしっかり、法律の勉強をしていない人に教えます。
森本 ぜひ、大事です。
小島 産業保健の法のベースには、労働法があるわけではないですか。労働法の、例えば、解雇権の濫用法理。配転などの人事異動が、どれくらいオールマイティーだったり、濫用になったりするかという、日本的な雇用慣行がまさに今、変化しつつある、人事権の行使の話、それから、就業規則の変更の有効性の判断など。産業保健の法は、結局これらに関わるので、きちんと、日本の労働法がどのように発展してきて、どのような思想や実務がベースにあるからそのようになっているかを、分かりやすく教えましょうと。その上に、産業保健に特化したり、安全衛生のトピックを載せないと、本当の意味では分からないです。
森本 そうです。
小島 ぜひ、そのようなところに、労働法の先生や、人事労働の実務をやっている、向井先生のような先生に来てもらって、素人にも分かりやすく、かつ本質的で高度な話をしてほしいということを来年からやりますので、ぜひ関わってもらえると嬉しいです。
向井 よろしくお願いします。
小島 三柴先生も期待していることは、そのような中で、産業医にも使える人がいるのだ、保健師でこれほどすごい人がいるのだという出会いがあるのです。僕も、熱心な産業看護師や保健師、産業医が集まる会に参加してはじめて知りました。きちんとした産業医がいるんだということももちろんだけれども、それ以上に驚いたことは、保健師や看護師にこれほど仕事ができる人がいるんだ、ということです。これは絶対に、企業が活用しない手はない。圧倒的な感動でした。
向井 すごいですね。知りませんでした。
小島 そのように知り合う場所があると、皆、それぞれの場所で悶々として、他の人はやらないけれども、自分はクライアントのためにやらなければと思って、試行錯誤したり、孤軍奮闘していたりする人たち、問題意識を持って頑張っている人たちが知り合って集まれば、では一緒にやろう、その経験を共有しようということで、一気に広がっていくと思います。この学会をそのような場にできればと思います。今まで、保健師・看護師と産業医、心理士と産業医はいくつかクロスする学会などがあったけれども、本格的に、社労士さん、さらには弁護士がそこに関わってくることはなかったです。
向井 フェイスブックなどのSNSによるつながりもありますね。
小島 あります。だったら、お客さんのためにも、今度、紹介してみようと、僕はまさにそのようにしています。産業医さんがいないときでも入ってもらったり、いても不満を持っていたりして、確かにこの件はこの産業医さんでは無理だということであれば、紹介したりします。看護師さんや保健師さんを紹介することもないではないけれども、心理士さんやカウンセラーは紹介することが結構あります。そのような関わりを持つと、多分、弁護士さんたちも、異業種交流といいますか、まさに連携と言われていますが、とても刺激になるかと思います。
向井 知りませんでした。
小島 その辺り、どのように思いますか。
向井 僕もいいと思います。実際、産業医の先生だけでは中小企業も含めたメンタルヘルス対応に足りていないので、保健師さんたちが関わってくれると、ありがたいです。僕も接点を持てるように、今回の学会はZOOMになってしまいましたが、自分が登壇しないセッションにも出るようにしたいです。
小島 ぜひお願いします。皆さん、熱心ですよ。
森本 やはり連携は大事だということですかね。
向井 連携の場になりますね。単に勉強する、本を読むだけでは無理なので、人が集まる場にしてもらうといいですね。確かに僕も、保健師さんを知りませんので。
森本 実際の連携となると、ここから先は、具体的な事例や、お互いの経験を持ち寄る中で、「私だったら、もう少しここはこのように助けになるよ」というようなところが見えてくると、より本質的、かつ、実践的な話題になるような気がしています。
小島 そうですね。極論してしまうと、他の専門職の役割も自分で全部できるようになっていないと、本当は連携できません。僕は産業医のいない外資系の会社のために産業医の代わりのようなことをやってきたので、僕は労働者と面談はしないけれども、産業医が会社にコンサルするようなことをしてきたのです。だから、精神疾患の本も読んだし、実際にそこに関わるので、本の知識以上に、いろいろな人とのやり取りの中から得た経験が役に立っているわけです。
ただ、それを全部やらないと身につかないのかというと、そのようなことはなくて、その人がどのようなことをやるのか、どのような問題意識を持っているかということを知るだけで、だいぶ違います。それはなかなか本に書けないことだったりして、まさに具体的な事案についてのコメントや、「自分ならこうする」という意見などの中で、「お!」という感じでくみ取れたり、もし一緒に仕事ができると、それを目の前で見せられたりする。
向井 連携を取るには、お互いの基本的な知識を知っていないと無理ですね。
森本 私が社労士を取ったり、公認心理師を取ったりしていることは、その部分に通じます。その専門職が身につけている知識や経験をもとに会話することで、それぞれの専門職の考え方を理解し共有する。
向井 まさに、先生は自ら実践されていますね。
小島 だから向井先生も一緒にやろう、というお誘いでもあります。
向井 やろうといいますか、もうやっていますよ。
小島 向井先生は、経営者が思い悩み、逡巡することにしっかり向き合っておられると思います。それは、労働者個人に対しても、です。寄り添うと、一言では言いますが。
向井 難しいですね。
小島 寄り添うということは、もやもやや堂々巡りのようなものに、しっかりつき合うことではないですか。
向井 そうですね。
小島 それをきちんとやられているし、それをまた公の場できちんと率直に話す、だから向井先生は人気があると思います。
向井 ありがとうございます。でも、本当に、今回、機会をいただいています。