事件と監督指導実例から学ぶ「生きた安全衛生法」

事件と監督指導実例から学ぶ「生きた安全衛生法」
~安全からメンタルまで~

 

産業保健・安全衛生の実践的な問題解決能力を磨くための講座です。
労働安全衛生法の趣旨や運用実態を振り返ったうえ、未来を展望します。
労災・健康障害防止の勘所は何か、デジタル化社会におけるリスクは何で、どのような対応が求められるのかが、具体的な事件等を通じて生々しく伝わる講座です。
ワークも採り入れ、実践的な問題解決能力を身につけます。
安全衛生や産業保健関係者のみならず、経営上のリスク管理に大きな示唆を与える研修です。安全衛生担当者・産業医・産業保健職・人事労務担当者・経営者など多様な職種の方々の参加を期待しています。

講師: 1日目 三柴か弁護士(現地)
    2日目 弁護士(現地)+元行政官か民間技術者(オンライン)
    3日目 弁護士(現地)+企業の人事関係者(オンライン)

*3日目の講師は弁護士のみもあり得る。

 

 1日目

1 安衛法の歴史と特徴(2時間)
2 25年先の産業と労働、安全衛生の予測(1時間)
3 職域の化学物質管理と法(2時間)
4 質疑応答(0.5時間)

冒頭に、25年後の産業と労働の未来予測を述べたうえで、労働に伴うリスクと安全衛生・健康管理の将来について論じます。
そのうえで、日本の労働安全衛生法の歴史と特徴について解説いたします。

既に生じた労災の再発防止策の義務化(危害防止基準の設定)を中心とするスタイルから、経営工学を応用した安全衛生管理体制の取り込み、危害防止基準の充実化、危険な機械の検査等の本質的安全化を進めたこと等で、重大労災を激減させたこと、対象とするリスクの複雑多様化を踏まえ、安全衛生管理体制に折々に必要な専門家を取り込むようになったこと等のほか、積み残し課題についても語ります。
また、最近の自律管理化を目指した職域の化学物質管理と法についても解説します。
ここでは、化学物質へのばく露被害を訴えた民事事件を複数紹介したうえで、ばく露被害防止のための法政策の展開を辿り、最後に近年の規則改正の実質、何が大切で何をすれば良いのかを論じます。

 

 2日目 安全衛生の失敗学

1 ~建設安全、化学安全の事件と得られる示唆~(2.5時間)
2 ~機械安全、放射線安全の事件と得られる示唆~(2.5時間)
3 事例を用いたワーク―判決の妥当性・災害原因・未然防止策の検討―(1時間)

安衛法の条文に関係する監督指導状況、様々な事件の概要、判決、判決や未然防止策に関する専門家の意見を紹介し、安衛法の運用実態の来し方を振り返ります。

1)東京高判昭和56年8月11日判例タイムズ459号143頁:偽装請負的な一人親方の被災案件につき、注文者の賠償責任が認められた例

2)JCO東海村臨界事故事件水戸地判平成15年3月3日判例タイムズ1136号96頁:ほんらい厳格な製造工程規制下にあった核燃料加工業者が、散発的で短期日の注文を受け続ける中で安全管理が軽視され、極めて悲惨かつ重大な災害を生じ、原子力関係法と安衛法の双方で関係者が処罰された例

3)建設アスベスト訴訟(神奈川)事件最1小判令和3年5月17日民集75巻5号1359頁:アスベストの製造や取扱いが禁止されるまでにばく露被害に遭った労働者や一人親方の国(とメーカー)に対する賠償請求が認められた例

4)岩瀬プレス工業事件東京地判平成20年11月13日労働判例981号137頁:プレスの取扱い経験は十分にあったが、法令が求める特別教育を受けていなかった作業員が、安全装置を一部無効化して被災した事案につき、彼の被災時に作業主任者がいなかったなどとして、事業者の規則違反と賠償責任が認められた例

5)東京地立川支判令和 3年12月16日WEST LAWジャパン:ビルの新築工事(メイン工事)とその一部(サブ工事)が分割発注された中、メイン工事の請負業者がサブ工事に対して上位の立場に立ち、ウレタンフォームが吹き付けられた壁に防火措置を講じず、構台杭の溶断を命じたため、引火して相当数の死傷者を出した例で、両業者に刑事責任が課された例

6)東京電力ホールディングス(旧東京電力)ほか2社事件福島地いわき支判令和元年6月26日裁判所WEBサイト:福島第一原発事故にかかる緊急作業に従事した従業員が、実際には閾値を超えていなかったのにポケット線量計が鳴ったため、作業停止を求めたのに作業を継続させられたとして、作業を指示した業者に慰謝料を請求し、認められた例

その他

 

 

 

 3日目 産業保健の失敗学

1 はじめに
2 産業医に関する裁判例 (計1.5時間)
3 司法の復職判定基準
4 事件の「筋」の重要性 (計2時間)
5 事例を用いたワーク      (1.5時間)

1 はじめに

 1.1 産業保健をめぐる政策と判例の傾向:主に私傷病者に対する国の対応の変化と産業保健者に求められる役割
 1.2 信頼される産業医(誇りを持てる産業医)を考える
 1.3 産業医制度が法定されていない国で、事業者が産業保健サービスを利用する理由(UK政府のWEBサイトに掲載された報告書)

2 産業医に関する裁判例

 2.1 神奈川 SR経営労務センター事件 (東京高判平成30年10月11日LEX/DB25561854
 2.2 東京電力パワーグリッド事件 (東京地判平成29年11月30日労働経済判例速報2337号3頁)
 2.3 NHK(名古屋放送局)事件 (名古屋高判平成30年6月26日労働判例1189号51頁(上告・上告受理申立)
 2.4 日本ヒューレット・パッカード(休職期間満了)事件 (東京高判平成28年2月25日労働判例1162号52頁) その後、最3小判平成28年12月20日Westlawで上告棄却され、確定
 2.5 ティー・エム・イーほか事件 (東京高判平成27年2月26日労働判例1117号5頁)
 2.6 その他の復職に関する裁判例と産業医・産業保健関係者の役割

3 司法の復職判定基準

 3.1 職種非限定契約の場合
  3.1.1 代表例と補充例
代表例:片山組最判(片山組事件最1小判平成10年4月9日労働判例736号15頁(賃金等請求事件、確定))
b.片山組最判の第3基準につき、(片山組最判の示唆通り)労働者に特定と申出を求めた例
c.片山組最判の第3基準の特定を使用者に求めた例

  1. 障害者雇用促進法上の合理的配慮の趣旨を体現したと思われる例
  2. 片山組最判3基準に沿いつつ、精神疾患者につき、復職可能性を否定した例
  3. 片山組最判3基準を若干アレンジしたうえ、「原職務」について解釈した例

  3.1.2 補論:片山組最判の復職判定基準は、復職後も有効か

 3.2 職種限定契約の場合
代表例:カントラ事件大阪高判平成14年6月19日労働判例839号47頁(1審:大阪地判平成13年11月9日労働判例824号70頁)(賃金等請求事件、上告後帰趨不明)

  1. 東京エムケイ事件東京地判平成20年9月30日労働判例975号12頁
  2. ケントク(仮処分)事件大阪地決平成21年5月15日労働判例989号70頁
  3. 障害者雇用促進法上の合理的配慮義務の履行支援を図る指針(合理的配慮指針(平成27年3月25日厚生労働省告示第117号)第4・1(2)ロ)

 3.3 両者に跨がる課題について
  3.3.1 復職可能性の判断時点

  1. 「履行の提供」という以上、復職申出後の改善可能性より、復職申出時点での労働能力を問うべきとした例(関西電力事件大阪地裁民事調停法第17条による決定平成12年5月16日判例タイムズ1077号200頁(地位確認、賃金等請求事件、確定))
  2. 残業(法定時間外労働)ができなくても復職適性ありとした例

  3.3.2 障害者雇用促進法との関係
   3.3.2.1 身体障害の例
   3.3.2.2 精神障害の例

  1. 精神障害者等に厳しい姿勢を示した例
  2. 疾病障害者の復職判断を性格傾向等で行ってはならないとした例
      3.3.3 主治医と産業医・指定医の見解が相違した場合
       3.3.3.1 注目すべき例
  1. 産業医の判断の合理性を認めた例
  2. 主治医の判断の合理性を認めた例
  3. 大学病院の診断の取扱い

4 事件の「筋」の重要性

5 事例を用いたワーク

生きた安全衛生法集中研修講座素案 生きた安全衛生法集中研修講座素案2