全国社会保険労務士会連合会副会長石倉様インタビュー

全国社会保険労務士会連合会 石倉正仁様にインタビューを行いました

 

学会広報委員会

日本の産業保健にはまだまだ多くの課題が残されています。社労士連合会のお立場から、現在の産業保健の課題をどのようにお考えでしょうか?

 

全国社会保険労務士会連合会(以下、社労士会) 石倉様

産業保健は「健康で安心して働ける職場づくり」を理念とするもので、本来、健康施策は予防や未然対応に力を入れるべきものですが、現在の労働行政や法体系は事後処理的なものが多いことが最も大きな課題だと考えます。昨今、メンタルヘルスが大きな課題となっており、それに起因する個別労働関係紛争の事案が絶えません。社労士はこうした問題が起きない職場づくりに関わるべきで、それが社労士に課せられた課題だと考えます。

 

学会広報委員会

おっしゃる通り産業保健の現場では、予防や未然対応の重要性を痛感することが少なくありません。その推進のためには、どのようなことが重要でしょうか?

 

社労士会 石倉様

重要なことは2つあります。1つは経営陣の意識改革です。戦後間もない時代には「ケガと弁当は自分持ち」と考える経営者が少なくありませんでした。今でも、部下や従業員が自分の家族でも同じことをするのか?と問いたくなるような事例もあります。より良い社会や会社を作るためには、従業員を「労働力」ではなく「人財」として捉えるパラダイムシフトが必要です。最近は健康経営の潮流もあって大きな変化を感じますが、従業員の健康に配慮する企業が伸びていく、それが本来の姿だと思います。

もう1つは、ハラスメント等の問題行動を抑止する仕組み作りです。例えば、飲酒運転は厳罰化により激減しました。ハラスメント等の問題行動に対しても同じで、就業規則や社内規定等でそれは悪だとしっかり定め、厳罰化するのも一つの手段です。人間の規律や自律のためには「タガ」となるシステムが必要だと思います。

この経営者の意識改革とシステムの変革は、企業の大小によらず取り組むべき課題だと思います。同時に、そのような風土を醸成するためには、社員教育も重要だと思います。

 

学会広報委員会

経営側と労働側の双方に対する教育が重要だということですね。石倉様が会長をされている埼玉県社労士会のホームページを拝見すると、学校教育への協力の一環で出前授業を行っている活動が紹介されていました。就業前の若年層への教育にも力をいれていらっしゃるのですね。

 

社労士会 石倉様

8年前、高校生・中学生にブラックバイトやブラック企業から身を守るための労働法教育を目的として始まりました。しかし、法律や会社の仕組みを教えるだけなら社労士でなくてもできます。社労士は遺族年金や障害年金などの事案を通じて、遺族や被害者の苦しみ・悲しみを目の当たりにしています。その経験から、若者に命の大切さを教えるべきなのです。若者の自殺ほど悲しいニュースはありません。自分は社会の役に立つことができる、そこに生きている意味がある、という希望を持ってもらいたいと考えています。

人は誰でも気持ちよく働きたいのです。会社や社会のために精一杯頑張ることで人の役に立っていると実感でき、それが命を活かすことになります。そういうことを教えるのが社労士の真の役割だと考えています。

 

学会広報委員会

産業保健職と社労士が協力し合うことができれば大変心強いと思いますが、その接点は少ないのが実態だと思います。このような多職種連携について、何か良い方策はありますでしょうか?

 

社労士会 石倉様

おっしゃる通り、産業保健職と社労士の接点は少ないのが現状だと思います。社労士として企業に関わる中で、産業医から協力を得たことで解決に至った経験は何度かあり、両者の協力には大きな意義があると思います。50人未満の企業には産業医の選任義務はありませんが、相談したい事案はたくさんあります。中小・小規模企業はマンパワーやコストに制約がありますが、そんな時に外部の力を借りられる仕組みも重要だと思います。

産業保健職と社労士で構成される協議会があると良いのですが、現状では地域産業保健センターに頼らざるを得ないように思います。地域によっては商工会議所がハブになりつつあるようですし、日本産業保健法学会もそのようなハブになっていく可能性が高いと思います。それを期待しています。

 

学会広報委員会

「多職種連携のハブ機能」という大きな期待を寄せて頂き、有難うございます。その他、日本産業保健法学会への期待をお聞かせください。

 

社労士会 石倉様

法律論だけでは現場は回りません。日本産業保健法学会は、その現場を理解している人の集まりだと思います。安全に健康に働くためにはどうしたら良いかを現場の声で社会に発信できる学会になって欲しいと思っています。

世の中には能力の高い人も低い人もいます。そういう人達を全部抱えるのが社会です。強者が弱者をいじめるのではなく、助け合うことで社会全体が良くなっていきます。そのような社会を目指すべきですが、社労士の力だけでは解決できないこともある。多職種との連携によって少しでも働く人の笑顔を作ることができればと思っています。

社労士連合会は「人の心に寄り添い、人を大切にする企業を支援し、人を大切にする社会の実現を目指す」ことをスローガンとして掲げています。それによって豊かな社会をつくることができると信じています。物質的な豊かさだけではなく、気持ちよく仕事ができ、誰かの役に立ってると実感し、生きていて良かった、と思えること。日本産業保健法学会では、多職種が協力し合うことでより良い社会を実現できることを期待しています。

 

 

石倉正仁様 全国社会保険労務士会連合会 副会長

【ご略歴】

1987年12月社会保険労務士として登録・開業、2013年6月より埼玉県社会保険労務士会会長。2011年全国社会保険労務士会連合会理事に就任、常任理事を経て2017年6月より副会長。2020年11月藍綬褒章受章。