日本産業保健法学会とは

最先端の法学、法実務の探求と
実践的で親しみやすい法教育の両立を通じ、
多職種で産業保健の推進を図る

いま産業保健の現場を悩ませているのは、主にメンタルヘルス不調+生活習慣病などの働き方・生き方に深く関わる課題です。

こうした課題の解決は、個々の専門分野のみでは難しく、現場、個人と組織を見据えた学際的な対応が求められます。そして産業保健分野では、1)法が領域をリードしている(法が産業保健業務の標準を提供している)こと、2)法的紛争が起きやすいことから、「法」が重要な意味を持ちます。

しかし、ただ「法」に使われていては、現場問題の解決は果たされません。「法」の専門性を高め、積極的に使う技術と発想を磨く必要があります。更には、「法」の創造まで歩みを進め、納得いく職業生活を送る人々を1人でも増やすことが、この学会の取組の最終目的です。

そのため、”人をみる法律論の展開”を図ります。
具体的には、
一、法による産業保健の支援を図ります。特に人間と組織に関わる問題解決(未然防止と事後対応)の支援を図ります。

二、予防的効果のある法の開発を図ります。

学会発足と同時に、認定資格制度(資格名:産業保健法務主任者/メンタルヘルス法務主任者)も発足します。法務を中心に、関連分野の実践的な知識を総合的に学び、現場問題解決力を身に付けた会員に付与される資格です。産業保健に関わる多くの方が学び、資格の取得に挑戦されることを期待しています。

 

本学会設立の背景-活動経験と必要性

⑴ 前駆活動

この学会は、発起人(後述)の1人である近畿大学法学部三柴丈典教授が中心となって設立・運営し、産業医、社会保険労務士、保健師・看護師、カウンセラー、企業の人事担当者や弁護士ら約800名の講座受講者を輩出した、産業保健法学研究会(2012年設立。当初の名称は、産業保健法務研究研修センター)の活動経験を基礎に発足を図るものです。

⑵ 本学会発足の必要性

いま産業保健の現場で多く生じている問題の解決は、個々の専門分野のみでは難しく、現場、個人と組織を見据えた学際的な対応が求められます。

そのことを象徴する具体例として、近年生じた神奈川SR経営労務センター事件が挙げられます。このケースでは、同種同根の問題から、既に4つの訴訟が提起されています。元は、社会保険労務士が運営する同センターが、おそらくは、その組織とあまり相性の良くない事務員を採用したこともあって、ハラスメント問題に発展し、事務員から訴訟が提起された後、センター側が一定金額を支払い、ハラスメント防止策をとること等を内容とする訴訟上の和解で終結しました(これは、訴訟実務上、センター側がハラスメントの存在を認めたのと同じような意味を持ちます)。しかし、その後も対立関係は継続し、事務員は、和解条件が守られていないとして2次訴訟を起こし、その請求は認容されました。そのうちに、事務員は、うつ状態となりましたが、センターから休職命令を受けて療養し、臨床症状は改善したため、主治医の診断書を添えて復職を求めたところ、心療内科を臨床上の専門とするセンターの嘱託産業医は、性格・人格的な問題から復職不可との意見を述べ、センターも復職を拒否して休職期間満了による退職措置を講じたため、3次訴訟が起き、結局、退職措置は違法無効とされました。その後も、センターが給与を支払いつつも復職させずにいたところ、遂にはセンターの嘱託産業医を相手方とする訴訟が提起された、という経過です。

このケースでは、被告は人事労務問題のプロであるはずの社会保険労務士の団体等であり、心療内科を専門とする嘱託産業医も代理人弁護士もいる、という体制のもとで、事態は沈静化せず、悪化しました。以前であれば、実際には、退職勧奨や解雇で終わっていた問題なのかもしれませんが、今は、ハラスメントなどとして事件化してしまいます。では、どうすれば良かったのでしょうか。

そうした課題の解決のため、法令・判例情報を素材として、学際的な学究活動を始めることとしました。

では、産業保健にとって、なぜ法が重要なのでしょうか。主に次の2つが挙げられます。

1)法が領域をリードしている(法が産業保健業務の指針を提供している)こと

2)法的紛争が起きやすい(健康という概念が曖昧で多様なため、健康被害などについて、責任の所在が不明確になり易い)こと

(3)目的

 この学会は、

・産業保健を、法的側面からも推進すること

・産業保健にかかる法的問題をリファーできる専門家を増やすこと

・産業保健実務者に法を踏まえた問題解決能力を高めて頂くこと、高めるための手法を探究すること

・法を予防的に活用する流れを作ること

・安衛法上の積み残し課題の解決を図ること

 を主な目的とします。

 (4)理念

 労使の健康に関わる試行錯誤と対話に基づく自己決定の支援を重視します。

 周知のとおり、WHOは、well-beingの定義を、身体的、精神的、社会的健康としていますが、現実的にはその全ての充足は難しく、そのうちどれを重視するかを含め、労働者ひとりひとりが、適切な情報を得た上で試行錯誤し、目標とする健康を選択する必要があります。自己決定の支援の重要性は、労働者を雇用・使用する組織にも当てはまります。転じて、個人と組織による、業を通じた個性の開花の支援こそが、終局的な目的と考えています。